若者は決して安全な株を買ってはいけない
Date:2012.05.27
若い時、ラジオの深夜放送を聞くのが流行っていた。受験勉強に託けて野沢那智と白石冬美がパーソナリティーをしていた「パックインミュージック」を音量を小さくし、父母に気づかれず、聞くのが本当に楽しかった。「前橋高校(前高)」と「高崎高校(高高)」のライバル校関係の話など、ワクワクしながら聞いたものだ。
その野沢那智が、ジャン・コクトーの「青年は決して安全な株を買ってはいけない。」という名言をある雑誌に取り上げ、若者に贈る言葉とした。この名言は、私を支えることになった。大学を卒業した後、大学院に進み研究者を志望することは、全く人と異なる道であり、可能性の少ない厳しい選択であった。父母が心配する中、その決断を支えた言葉が、コクトーの言葉である。研究者を志望することは、当時、社会から見れば「危険な株」との評価を下されるものであった。しかし、勇猛心をもって挑戦すること、何があっても退かない心を持つこと、そして、子供の時からの夢への道の始まりであること、研究と教育の喜びに未来を見出すことに、自分を賭けることにした。
今日、法科大学院進学に必要な法科大学院適性試験が行われている。大学を卒業し、会社を辞めて、あるいは、家庭から出て、法科大学院に進み「法曹」を目指すことは、「決して安全な株」ではない。法科大学院を取り巻く現在の環境や諸条件のなかでは、ハイリスクの進路選択となり、逆にハイリターンは期待が薄いかもしれないと思う人も多いであろう。
しかし、私たちが有する人生は、一回性のものでしかない。自分で自分の人生を、責任を持って創造すること、これこそが人生の目標であり、追求すべき至高の価値ではないか。今の世の中、金権政治、拝金主義の悪しき時代の影響を引きずり、金銭的な観点からしか物事を考えられなくなっている。大いに反省すべきことである。このような時代だからこそ、反対に、希望の大切さが光り輝く時でもある。「良き法曹」となって、社会的正義を模索しそして献身的に人と繋がり、社会へ貢献していく「勇敢な法曹志望者」が求められているのである。
法科大学院適性試験が終了した後は、法科大学院選びとなる。私どもの法科大学院は小規模であるが、少人数教育の領域にとどまることなく、個人個人を大切にする「個別教育」を実践展開している。今夏は学生とともに「夏期合宿」をして、大いに法や人生について語り合うことになろう。「決して安全な株」ではないが、「誇り高き人生の創造者」が、駒澤大学法科大学院を進学先として選択することを祈っている。(H)