労働者と農民(中村 政則著)
Date:2022.06.01
書名 「労働者と農民」
著者 中村 政則
出版社 小学館
出版年 1976年7月
請求番号 210.1/1-29
Kompass書誌情報
古典を読もう。
毎日膨大な情報が生まれては消えていく今日の状況のもとで,私たちは情報の消費者として日々多くの情報を読み捨てている(この小さなコラムもまた,間違いなく読み捨てられる)。それはそれで,変化の速い世の中の潮流を生き延びていくために必要なスキルではある。しかし,それだけで良いのだろうか。胸に刻まれる言葉や心を揺さぶられる物語,そして繰り返し読みたくなる本と出会うことが,豊かな人生を過ごすために大切なのではないだろうか。
自分にとって大切な本をすでに見つけられた人は幸いな人だ。しかしそうでない人がこれからそうした本との出会いを求めるなら,古典を手に取るのが近道になるに違いない。古典は古典として書かれるのではない。執筆当時の時代状況と,それが書かれる必要とを反映して書かれた書物が,長い時間を経てもなお多くの読者に読み継がれることによって,古典としての地位を獲得していくのだ。つまり,それだけ多くの人に繰り返し読み続けられた実績を古典は持っている。そのため古典と呼ばれるいくつもの本のなかには,自分にとって大切な本となり得る本が含まれている蓋然性が高いはずだ。
そして本書もまた,多くの人に読み継がれてきた古典であり,かつ私にとって今後も折に触れて読み返すことになるであろう大切な本だ。近代日本社会の底辺で呻吟し,しかしより良く生きるべく行動を起こす人々の変化と成長が描かれる一方で,そうした人々の人生を規定する社会の構造と動態とが解明される。そしてそれぞれが経糸と緯糸となって,広い展望を持った歴史像として織り上げられていく。その見事な手腕には感嘆するよりほかない。この本は,将来にわたってより多くの人に読み継がれていく価値のある本だ。
古典を読もう。読み継ごう。
そのためにも版元の小学館さん,そろそろまた文庫復刻版を再版してくれませんか?
経営学部 准教授 中村 一成