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感染症と経営:戦前日本企業は「死の影」といかに向き合ったか(清水 剛著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2021.02.01

書名 「感染症と経営:戦前日本企業は「死の影」といかに向き合ったか」
著者 清水 剛 
出版者 中央経済社
出版年 2021年4月発売予定

「現在しか知らない場合と、過去しか知らない場合で、どちらが保守的になるか」(ケインズ)

今から100年前、1920年前後の日本は、スペイン風邪が流行し、結核による死亡率も非常に高く、「死」が身近にある社会であった。また、それまで短いサイクルで栄光盛衰を繰り返してきた企業が長期的に存続するようになり、そこで働く社員に「サラリーマン」という言葉が使われるようになったのも1920年代であるという。本書は、そのような時代の企業経営の変化、すなわち、従業員、消費者、株主との関係の変化を、当時の小説、映画、音楽、雑誌などの文化を示す資料や、企業に関する統計など幅広い資料を用いて描き出し、そこから「コロナ後」の企業のあり方、働き方について考察している。雑誌「主婦の友」による通信販売の拡大など、現在のインターネット通販の拡大と同様の現象がみられること自体も大変興味深いが、表面的な現象の類似性ではなく、その社会的背景や社会にもたらした影響を考えることこそが、歴史から学ぶうえで重要であることがわかる。

本書のもう一つのテーマは、「信頼」である。顧客と企業、従業員と企業、株主と企業の信頼関係の構築という視点で企業経営の歴史をとらえている。「信頼」は、社会において変わらぬ重要なテーマであるが、そのための手法や重点は社会状況に応じて変化している。このような普遍性と変化を歴史から学んでもらいたい。また著者は「信頼」と「依存」を区別し、企業と従業員は信頼関係を構築しても、依存関係に陥らないためにどうすべきかを論じている。これから社会に出ていく皆さんにとって、重要な視点であると考える。

歴史を知ることでコロナ後の世界を考え、主体的に行動してもらいたい。

経済学部 教授 村松 幹二

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