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地図帳の深読み(今尾 恵介著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2020.10.01

書名 「地図帳の深読み」
著者 今尾 恵介
出版者 帝国書院
出版年 2019年8月
請求番号 448.9/353
Kompass書誌情報

かつて中学・高校時代に使った「地図帳」の地図が、多数レイアウトされたこの本の表紙を見て、とてもなつかしく思った。背表紙も地図帳と同じ深緑色で、なんとも憎いデザインである。本書は、地図研究家・エッセイエストで、地図や地名に関する多数の著作のある今尾恵介氏が、「本来は教科書でありながら多くの人が学校卒業後も保存している地図帳」を、あらためて隅から隅まで「深読み」し、地図帳がいかにおもしろいか、楽しいか、驚きか、役に立つかなどを語ったもので、原寸の地図はもちろん、関連する写真や主題図が満載され、全ページカラーの充実の一冊である。

目次を見ると、順に地形、境界、地名・国名、新旧地図帳、経緯度・主題図・統計の5つの章に分けられているが、各章それぞれ4ページからなる話題が7〜9つ並び、どこから読んでも楽しめる。例えば、アメリカ合衆国のユタ州にあるグレートソルト湖(面積は琵琶湖の約4~9倍)では、中央やや北寄りを大陸横断鉄道が横切っているが、小縮尺の地図帳の地図でもはっきりとそれがわかる。その場所の大縮尺の地図を添えながら、この巨大な湖に架かる長大橋の建設、その後の築堤、それによる湖南北の塩分濃度の差の拡大、湖水の色の変化など、鉄道にも造詣が深い著者のうんちくが披露される(第1章)。

またアメリカ合衆国の州界は直線になっていることが多いが、「隣接州との境界がすべて経緯度なのは3州だけ」、「全米唯一の4州が1点で出会う場所(Four Corners)は、ユタ、コロラド、アリゾナ、ニューメキシコが接する広漠たる原野の中」だとか、「カナダ国内でも北緯60度線と西経102度線の交点が 4つの州・準州の交会点となっている」ことなど、トリビアな話題が続く(第2章)。

最後にもう一つ、「5度刻みの緯線のうち、日本で最も長く陸上を走る緯度」である北緯35度をたどると、「房総半島先端部付近から、伊豆半島を経て安倍川・大井川・天竜川を渡り、伊勢湾を横断して琵琶湖最南端を横切り、兵庫県西脇市で東経135度との交点(日本へそ公園)を通過し、中国山地を斜めに横断して島根県江津で日本海に出る。その西側延長は韓国釜山市付近である」ことが示され、地図帳を使った机上旅行で意外な事実とめぐり会える(第5章)。

あとがきで著者は、「世界はあまりに広く、人はその大半を知らずに一生を終えるのだが、地図帳があれば、少なくとも知らない場所へ空想旅行することはできるであろう」と呼びかけている。今春からのコロナ禍で行動が制限される今こそ、この本を参考に地図帳片手に想像の旅に出てみてはいかがだろう。

文学部 教授 平井 幸弘

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