令和7年度 入学式 学長式辞
新入生の皆さん、保護者の皆様、ならびにご関係の皆様、本日は、ご入学、誠におめでとうございます。ようこそ、駒澤大学へ。心よりお待ちしておりました。
私はこの4月1日から、学長の職に就きました。いわば学長1年生です。任期は4年間ですので、ちょうど今ここに集う皆さんが4年後に迎える卒業式と同時に、私も学長を卒業することになります。新入生の皆さんと同じスタートを切った今、同じ年月を一歩一歩成長していけるよう、私自身も真摯に自己研鑽に励む所存でおります。
村松 哲文 学長
駒澤大学は、仏教を礎として開学して以来、釈尊の教えに基づいた「智慧」の探求と「慈悲」の実践に努めてきました。仏教の「智慧」とは、真実を見通す眼をもって本当に大切なことを見分ける力、「慈悲」とは、他者の喜びや悲しみを共感する思いやりの心です。
言い換えると、駒澤大学での4年間における教育の礎は、「自分を大切に磨き、他者とともに分かち合うこと」にある、ということです。
私はこの「智慧」の探求と「慈悲」の実践に加えて、「誰からも愛される大学」になることを目指しています。つまり「智慧」と「慈悲」に、仏教の教えである「縁起」を加え、教育の礎をより強固な3本の柱にして歩んでいきたいと考えています。「縁起」とは、私たちはけっして孤立した存在ではなく、すべてが関わり合って生きているという仏教の教えです。
皆さんも私も、多くの人との縁によってここに生きています。駒澤大学はその縁を大切にし、共に学び、支え合う場であってほしいと考えております。
駒澤大学は、曹洞宗の僧侶養成機関を前身としており、その歴史は400年以上前の江戸時代にさかのぼります。その後は、現在の六本木に移転し、「曹洞宗大学専門本校」と校名が付けられてから「駒澤大学」と改称され、今年で143周年になります。この駒沢の地に移転してから数えても112年になります。ちなみに構内で一番古い建物は現在の「禅文化歴史博物館」です。関東大震災後に再建された旧図書館で97年前の建物になります。今年度、文化庁の文化審議会で国の有形文化財になることが決まりました。つまり駒澤大学の中には、国の文化財があるのです。
さて、現在、私たちは大きな変化の時代を生きています。世界情勢の不安定さ、急速に進化するAIやテクノロジー、環境問題、そして先日はミャンマーで大地震が起こりました。予測困難な社会の課題が次々と現れています。まさに、「無常」の世の中です。
しかし、曹洞宗の開祖である道元禅師は『正法眼蔵』の中で、「無常を覚るを仏法とす」と説かれました。世の中が常に変化することを受け入れ、その中でいかに他者とともに自分の人生をよりよく生きるか、を問い続けることこそが、学びの本質であるということでしょう。
また、道元禅師は「学道には、発心、修行、菩提、涅槃、みな同時なり」とも説かれました。つまり、「学び」とは単に知識を蓄えることではなく、「志を立てること=発心」、「努力を重ねること=修行」、「智慧を深めること=菩提」、「自己を超えていくこと=涅槃」、というように言い換えることができます。これは、まさに皆さんが大学生活で経験していくことと重なります。
大学生活には、多くの挑戦が待っています。時には困難に直面することもあるでしょう。しかし、それもまた「学び」の一部です。どんな状況にあっても、その瞬間、瞬間を大切にし、今できることに精一杯心を尽くし、仲間とともによりよい人生を目指していくことが肝要です。
道元禅師をはじめとする禅の言葉に出会う度に、私の中に思い浮かぶことがあります。それは、「持っている」の本当の意味です。皆さんはたくさんのものを身の回りに持っていることでしょう。今日もバッグや鞄を持っていることでしょう。入学式に出席するために、お一人おひとりに似合う素敵なスーツやファッションを身に着けていらっしゃいます。しかしこのことは、本当の意味であなたが「持っている」ことになるのでしょうか。
この春にちょうど始まったばかりのNHK連続テレビ小説「あんぱん」をご覧になっている方もいると思います。皆さんは、小さい頃、「アンパンマン」が大好きだったと思います。「アンパンマン」の作者・やなせたかしさんは、絵本の中で「逆転しない正義」を描いています。
例えば、ここに美味しそうな「あんパン」があります。ちぎられないで綺麗な形のままでは何の足しにもなりません。ちぎられて、食べられて、初めてパンの役割を果たします。つまり、パンは食べられて誰かの糧となって、初めてパンになるのです。「禅問答」のように聞こえるかもしれません。
私は、自分の持っているものを、自分以外の人に与えることができて、初めて「持っている」といえると思います。自分が気に入っているものや、身に着けているものは、単に身近にあるものに過ぎません。自分が所有しているものや、自分の中にある知識を、他者に与えて、初めて自分の「持っているもの」の姿が確実に見えてきます。
折りに触れて、自分が本当に「持っているもの」について、ご自身で考えてみてください。そして、なにか発見したら、ぜひ私にも教えてください。学内で気軽に声をかけていただければ嬉しいです。
新入生の皆さんお一人おひとりの心身の成長が、駒澤大学の未来をつくります。先ほど申し上げたとおり、私も学長1年生です。ともに学び、互いに高め合いながら、この学び舎をより輝かしい場としていきましょう。
ともに学ぶ友として、私の心からのお祝いの言葉とさせていただきます。
あらためまして、新入生の皆さん、保護者の皆様、ならびにご関係の皆様、本日はご入学、誠におめでとうございます。
令和7年4月8日
駒澤大学 学長 村松 哲文