令和5年度 9月学位記授与式(卒業式)学長式辞
令和5年度駒澤大学「9月学位記授与式」にあたり、一言、御祝辞を申しあげます。
晴れて卒業される皆さん、ご卒業、ご修了おめでとうございます。長い間、物心両面でご支援くださいましたご親族の皆様に対し、改めまして心からのお祝いを申し上げます。
卒業に至るまでのプロセスは、それぞれに長い道のりだったことでしょう。しかししっかりと「学位」を取得することができました。皆さんのその頑張りは、今後の人生を支える基盤となることと確信しています。
この4月より、対面での授業が再開され、キャンパスはすっかりコロナ禍前の活気を取り戻しましたが、みなさんの大学生活の3年間がオンライン中心だったことは、世界共通の歴史に残る経験とはいえ、厳しい体験だったことは確かです。世界共通のこの経験を、世界中の同期とともに、今後の人生に活かし、ともに新しい未来を創造して欲しいと願っています。
私が学長に就任しました2021年4月はコロナ禍の真っ只中でした。以来、2年半が経ちましたが、「デジタル化の推進」と「ダイバーシティの尊重」には継続して取り組んでいます。この2年半の間にも、社会は様々な局面で変化を続け、「デジタル化」の技術もさらに進化しました。それに連れて、「ダイバーシティ(多様性)」つまり「個人」の在り方も変容を遂げています。この1年の外部環境の変化の中で、皆さんの今後の人生に大きく影響するであろう変化について、3つお話したいと思います。
まず第一に、生成AIの技術と働き方です。ITの専門家ではなくとも、昨年11月に登場した生成AIの動きは革命的です。本学のホームページでも、この4月に、「人工知能の利用について」というタイトルで、注意点を3つ掲げ、「人工知能をどう利用するかを人類の問題と考えて充分に注意しつつ、新しいテクノロジーを使いこなすという不断の努力が必要」という姿勢をお伝えしました。これからは、皆さんの働き方、生き方は一層大きく変化することでしょう。
「誰もが100年生きうる時代」となり、どう生きるのかが問われ始めています。5年前にベストセラーになった「ライフシフト」の著者であるイギリスのロンドン・スクール・オブ・ビジネスで経営学(マネジメント)を教えるリンダ・グラットン博士は、2017年、日本政府から、『人生100年時代構想会議』のメンバーに唯一、外国人として招聘されましたが、昨年末、ReDesigning Work(『新しい働き方』)という著作を出しました。
今、世界中で人々の働き方が変わろうとしています。鍵は「働く場所」と「働く時間」の組み合わせです。個人で仕事をする時間と、協働する時間を分けること。同時に、AIに任せる仕事と、人間が担当する仕事を分けること。選択の幅が大きく拡がり、組み合わせの選択肢は無限です。それぞれの組織の目標実現のために、より良い連携のために、どの様な組み合わせが最適なのか、世界中で模索が始まっています。
次は、世界の人口です。昨年9月の卒業式に、毎年7月11日は国連の定めた「世界人口デー」であることをご紹介しましたが、昨年11月、人口が80億人を超えました。そして、今年の4月に、インドが中国の人口を超えて、世界一となりました。現在、インドは約14億3100万人。2位となった中国は、14臆2500万人となりました。3位のアメリカは3億4千万人ですので、この2国は突出しています。日本の人口は1億2300万人強ですが、昨年の11位から1位下がり、現在、12位となりました。今後、益々減少の一途を辿ります。いま、世界の人口のうち日本人の割合は1.53%。100人の村に例えれば、日本人は1.5人です。
もうすでに、就職した卒業生たちの中にも、インドに駐在になる卒業生が出始めましたが、皆さんがこれから働く現場でも、共に働く顔ぶれが大きく変化することになるでしょう。
最後に、気候変動についてです。今年の夏、世界の平均気温が最高を更新しました。この7月、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が到来した」と警告し、「気候変動の最悪の事態を回避することは、まだ可能だ」と述べました。
「地球沸騰化」とは、2023年7月の世界の平均気温が観測史上最高となる見通しから生まれた言葉で、今まで定着していた「地球温暖化」よりもレベルの高いものとされています。 実際に日本でも、この夏の気温が40℃を超える地域もあり、熱中症による救急搬送も昨年の同時期と比べて2.3倍となりました。過去100年の気候変動の原因に、「人間活動で温室効果ガスが増えた」ことを計算に入れなければ、説明がつかないことは分かっている。そこで、大きな原因は、地球温暖化/沸騰化を引き起こしているCO2やメタンなどの温室効果ガスの排出削減が問題になってきます。
こうして世の中は常に変化しています。コロナ禍でもそうだったように、世界中で対話と協調を続ける努力が今後、ますます必要になります。国の違いだけでなく、言語や文化、価値観の壁を越えて、多様な人々と対話を進めて合意に至るプロセスは、簡単ではありません。しかし、多様な意見を尊重し、それぞれが譲歩して合意しようとする姿勢と努力が、今まで以上に必要であることは確かです。
幸い、本学を卒業される皆さんは、仏教の教えを少なからず学んでいます。こうした「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状況を示すVUCAの時代を力強く生きる「"智慧と慈悲"の精神」をもち、「しなやかな、意思。」を身に付けています。誇りをもって大海に乗り出してください。本学で学んだ様々な知識と知見を社会の現場で日々実践して欲しいと思います。
改めまして、お祝い申し上げます。
ご卒業おめでとうございました。
各界で活躍される皆さんの姿に思いを馳せつつ、私の祝辞といたします。
令和5年9月16日
駒澤大学学長
各務 洋子