令和元年度 9月法科大学院入学式 学長式辞
この度は、駒澤大学大学院法曹養成研究科(法科大学院)へのご入学おめでとうございます。文部科学省も目処としています競争率2倍を超える入学試験を見事に突破されたことは、本学が、皆さんに法曹になるための資質と意欲を認めたことを意味します。これからは、本法科大学院の教職員が皆さんと一体となって、その才能を開花させていきたいと思います。
ご存知のように、経済、政治、社会などの諸領域においては、国の内外に関わらず多種多様な紛争が生じています。紛争は、確かに、一面において自由競争を意味しており、より良いもの・より合理的なものを生み出す努力でもありますが、他面において、自己利益の最大化を目指す行動でもあります。
決して、自己利益の最大化を否定するものではありません。しかるにその自己利益の最大化を目指す行動は、あくまで正義に叶い、人類と平和に貢献するものでなければなりません。その時、それは後世の人々から評価される営為となります。正義に叶い、人類に役立つもの、それは長い歴史を経て、「法」という規範に凝縮され伝承されていると考えられます。要するに、法文化は、人類の伝統であり財産であります。皆さん方には、まず一生懸命法を勉強していただき、法のエッセンスを修得していただきたいと思います。
私はこれまで、学長として「学生ファースト」を掲げ、ユニバーシティ・ガバナンスに意を注いで参りました。私のいう「学生ファースト」は、決して学生の怠惰を擁護するものではありません。駒澤大学が427年にもわたって、仏教・曹洞禅を建学の理念としていることからもお分かりのとおり、「共生(ともいき)」、すなわちまず自分が他者から尊敬される生き様を示すこと、それと同時に、他者のその生き様を尊重すること、そこから、真の共生が生まれるという考え方です。その共生関係は、智慧と慈悲に溢れたものになります。
私のこの考え方は、「こころ」の重視に繫がります。それも、ただ強い心を持つだけでなく、優しい心をも持ってほしい。仏教用語でいえば、「柔軟心(にゅうなんしん)」を体得してほしいと思うのです。如何なる環境下にあっても、個としての自覚と尊厳を支えるものは、「こころ」です。
これから、法曹としての基本的知識と技術、思考力・判断力・表現力を修得し、私たちの周りに惹起する困難な課題や問題について、この「こころ」を大切にして、主体的な解決努力を試みてください。時代の先端を走るものは「伝統」を重視するだけでなく、「刷新力」を必要としています。その努力の持続が、必ずや皆さんの目標達成を可能にし、かつ、駒澤大学法科大学院で学んだ証として、今後の皆さんの有為な活動の支えとなるでしょう。
以上をもちまして簡単ではありますが、令和元年度法科大学院9月入学式に当たっての、私の「式辞」といたします。
令和元年9月21日
駒澤大学学長
長谷部 八朗