平成29年度 9月学位記授与式(卒業式)総長祝辞
本日ここに平成29年度駒澤大学学位記授与式にあたり、晴れて卒業される53人の皆さん、ご卒業おめでとうございます。合せて長い間この日が来るのを心待ちにされ、ご子女の学業成就を物心両面から支えてくださったご父母ご親族の皆様に対し、来賓各位と共に教職員一同、心から感謝申し上げ心からお祝い申し上げる次第です。
現今、世界情勢は混迷を極め、米国や欧州に広がる偏狭なナショナリズムは排外主義を喧伝し、共存共生の持続可能な開発目標(SDGs)を目指す人類の叡智は顧みられず、信頼に足る時代の空気に乏しく、やり場のない人々の思いはうっ屈しています。
国内では、東日本大震災による津波と原発事故からすでに6年半の歳月が経過するのに、復興事業は思うように進まず、帰還困難区域住民の生活再建は想像を絶します。非難指示の解除までの11年間で生活環境は一変し、故郷に戻る住民は1割足らずだろうと推定されます。さらに7,848人を数える避難児童生徒は、転校先でいわれなき差別を受け、陰湿ないじめはあとを経ちません。他人の苦しみや悲しみに思いがいたらず、自分だけよければ他人などどうなっても構わないという考えばかりで、これから先、私たちの社会はどうなるのでしょうか。
幸い卒業生の皆さんは、本学でブッダの智慧と慈悲の心を学びました。この世は諸行無常であり、朝露のごとく人のいのちははかなくいとおしいものです。すべての現象は相応の原因や条件によって生まれ、やがて消滅していきます。人生の出会いは正に一期一会です。自分のいのち同様どんな小さないのちもスペアのないたった一つの尊いいのちなのです。10年前にガンで早逝した『十四才からの哲学』の著者はこう言います。「君は自分を捨てて無私の人であるほど君は個性的な人になる。これは美しい逆説だ」。この言葉は真実語です。
永平寺のご開山道元禅師は、ブッダの智慧と慈悲の教えを敬慕し、ブッダの坐禅を日課とされました。姿勢を正し、呼吸を整え、心を静め、どんなささいことにも親切に丁寧に向き合う、自分のことは後回しにして、先に人のためにしてあげる、そういうふうに生きたいと願われ、そのように生きられたのでした。
本学で坐禅の教えを学ばれた卒業生の皆さんは、智慧と慈悲の真実に生きた祖師たちの一生を折々に思い起し、どんな困難な局面に出会っても逃げることなく、自分の問題としてしっかり受けとめ、世の為、人の為に誉りと勇気を持って歩まれるよう願って止みません。幸せは己れの生き方一つにかかっている道理です。
これからそれぞれの社会で雄飛される皆さんの、たくましく美しい将来の姿に想いをはせつつ一言贐の言葉といたします。
平成29年9月16日
学校法人駒澤大学
総長 池田 魯參