平成29年度 学位記授与式(卒業式) 総長祝辞
本日ここに平成29年度駒澤大学学位記授与式にあたり、晴れて卒業される皆さん、ご卒業、ご修了おめでとうございます。この日を心待ちにし、長い間ご子女の学業成就を物心両面からご援助くださったご親族の皆々さまに対し、ご来賓の関係各位と共に、教職員一同心からお祝い申し上げ、尽心の謝意を申し述べる次第です。
卒業生の皆さん、本学でのキャンパスライフはいかがでしたか。専攻学科の講義や演習あるいはゼミ、課外活動や部活動で、最新の学問や技能を修得することができたでしょうか。本学で学び得た新しい知見をこれから社会で存分に活用してみようと意気込んでおられるのではないでしょうか。
今年になって、2月10日に 石牟礼 道子 さんが亡くなり、2月20日に 金子 兜太 さんが亡くなりました。半世紀前、石牟礼さんは名著『苦海淨土』を刊行し、チッソ工場が出す、有機水銀の排水で汚染された魚を食べて、水俣病に罹った人の惨状を訴え、自然や共同体を破壊してまで成長拡大を求めて止まない近代の病理に警鐘を鳴らし続けました。
また、金子さんは、海軍中尉として南洋のトラック諸島に赴任し、終戦を25歳で戦地で迎え、「戦争ほど恐ろしいものはない」「人間は戦争で犬死にしたりせず、何もしなくても生き永えるだけで尊い」と訴え続け、終生戦後の新しい俳句の表現者として活躍されました。敬愛するお二人の生き方から、私たちは地球規模、宇宙規模で縁起し連鎖している生命体のリアリティーに想いを致し、環境の保全に努め、戦争のない平和な日常生活を実現し持続させるために、どうしなければならないか真剣に立ち向かわなければなりません。
また3月8日の警察庁の発表では、全国の警察が児童相談所に通告した18歳未満の子どもが過去最多の65,431人を数え、前年比20.7%増ということです。毎日児童虐待のいたましい事件が報じられています。人権が尊重され、幼い命が温かく見守られ、誰も置き去りにしない、そんな幸せな社会を建設するために、私たちは力を合わせなければなりません。
幸い本学で禅・仏教を学ばれた皆さんは、仏の智慧と慈悲の哲学をバックボーンにされ、すべての事象は無常であり、人生は一瞬の出来事であると弁え、人のいのちは はかなく、もろく、いとおしいものであって、自分のいのち同様スペアのないたった一つの尊いものであることを心に刻みつけ、社会の隅々に相手を思い遣る人間関係を創り出していただきたいと願います。
我らが道元禅師はブッダの生き方を敬慕し、ブッダの坐禅を日課としました。先ず姿勢を正し、呼吸を調え、心を平静に保ち、内から露わになる声に誠実に隨い、自分を後回しにして他人のためにしてあげる、そういう人間になりたいと願い、そのように生きられたのでした。
本学で坐禅の教えを学んだ皆さんは、一生ブッダの智慧と慈悲の教えに学び続け、人生のどんな苦難に出会っても逃げることなく、自身の問題としてひき受け、誉りを持って世の為、人の為に働かれるよう念願して止みません。全ては己れの生き方一つから始まる道理です。
これから各界で雄飛される皆さんの、力強く美しい将来の姿に想いをはせつつ、一言、祝辞といたします。
平成30年3月23日、24日
学校法人駒澤大学 総長 池田 魯參