平成28年度 入学式 総長祝辞
本日ここに平成28年度駒澤大学入学式にあたり、晴れて本学に入学を許可された皆さん、ご入学おめでとうございます。併せてご列席の保護者、ご親族の皆様、関係者各位に対し、心から祝意を申し上げます。
駒澤大学は、ご案内のように、仏教の教えなかんずく曹洞宗の坐禅の宗旨を建学の理念として開学した大学です。本学の淵源は420余年も前のことになります。江戸駿河台にあった曹洞宗の名刹吉祥寺に創設された旃檀林学寮に始まります。校歌の中で繰り返し旃檀林旃檀林とリフレインされるのはここに由来します。旃檀林とは、禅籍に「香ぐわしい旃檀の林には雑木は一本も生えていない、この森に住むのは百獣の王の獅子だけだ」とあるのが典拠です。薫り高い旃檀の林を学び舎に、そこに学ぶことができる学生を獅子に見立てているのです。皆さんは旃檀の森に住む獅子のように、本学の輝かしい学統に恥じぬよう、それぞれに専攻課程の学術の最新の成果を学び尽くさずにはおかないというぐらいの気概を持って、日々キャンパスライフを充実させるよう精進いただきたいと願います。
さて、曹洞宗を開かれた道元禅師は、釈尊の教えを終生景仰されました。青年釈尊は、自分は何のためにこの世に生まれたのか、自分は己れの人生を何う生きたらいいのか、深く思い悩まれ、坐禅を行じ抜いて、最も大事なことは智慧と慈悲の心をそなえた人間を創ることだとさとられたのでした。菩提樹下でおさとりになったときは勿論、80才で入滅されるまでの45年の歳月を、毎日6時間おきに、1日4回坐禅されたと伝わる釈尊の日常生活に注目し、道元禅師はこういう釈尊の坐禅こそ私たちに開かれた最善の修行法であると高く評価されるのです。先ずは姿勢を正し、一息一息臍下丹田で腹式呼吸にととのえ、善く調った心で感性豊かに、ハートフルに己のあるがままのいのちを観察するよう教えられます。その辺の消息を『正法眼蔵』でこう示しておられます。「仏道をならうというは自己をならうなり、自己をならうというは自己をわするるなり、自己をわするるというは万法に証せらるるなり、万法に証せらるるというは自己の身心、他己の身心をして脱落せしむるなり」と明記します。坐禅をしてあるがままの自分の姿が露わになると、他者を固く隔てていた「自分の壁」がすっかり除かれ、あらゆる世界と呼び応わしている本来の己のいのちのありようが明らかになるというのです。やがては山も川も草も木も、卵から、母胎から、湿気から生まれたあらゆるものが、皆私たちと同じかけがえのない一回性のいのちとして現象していることに気づかされます。この法(ダンマ)・真実が体得されると、この世にありとしてある、はかなくもろいいのちを大切に育もうとする強固な意志が現われ仏の智慧と慈悲の心がどれほどのものか、心底理解できることになるはずです。
現在、国の内外には、自分だけ良い思いをしたい、目立ちたい、自分たちだけ良ければ他はどうなっても構わないという、独善的な利己的な考えが蔓延しており、目を覆いたくなるような陰惨な事件が次々に起こり、世界各地で紛争や戦争がこれでもかとばかりにエスカレートしています。今日ほど仏の智慧に学び、仏の慈悲を行うことの大事、すなわち本学の建学の理念である「行学一如」の生き方が求められているときはないようにおもわれます。
私たちはいのちの原点に深く想いを致し、本当に信ずるに足る、誠を尽くすに足る、敬うべき、愛すべき、人間の矜恃を再生させる努力を怠ってはならないと信ずるものです。
駒澤大学に入学された皆さんには、めぐまれた教育環境の中で、教養を深められ、専門の学問技術をしっかり修得され、是非とも香り高い人格を陶冶されますよう願って止みません。またとない本学での大学生活を実り豊かなものにしていただきたく、皆さんが身心堅固で無事に学業を成就されますことを心から祈念申し上げ、一言祝辞といたします。
平成28年4月8日
学校法人駒澤大学 総長 池田 魯參