平成27年度 9月法科大学院入学式 総長祝辞
駒澤大学法科大学院への御入学、おめでとうございます。難関中の難関として知られる国家試験の司法試験合格を目指して、高度な法律の学問を修めるべく、本学の法科大学院を選択されました皆さんの向学心に尽心の敬意を表します。所期の高い目標に向かって、たゆまず御精進なさいますよう、心から祈願申し上げます。
既に御案内の通り、駒澤大学は仏教、なかんずく禅の教えを建学の理念に掲げ、開学してから本年で133年目を迎えることになりました。「仏教」という語は、キリスト教・イスラム教など世界の諸宗教に合わせ、明治以降一般化した割に新しい言葉です。伝統的な呼び方では「仏法」といいます。永平寺を開創された曹洞宗の宗祖道元禅師は、自らさとられた仏教を「正伝の仏法」「正法」と呼び、釈尊が毎日4回行じられた坐禅の修行こそ、釈尊直伝の正しい仏法であると強調されました。この宗旨は今日まで連綿と承け継がれ、永平寺・總持寺の両大本山を始めとする、全国各地の専門僧堂(修行道場)で、現在も変わることなく行じられています。
仏法の法は、法学・法律の法と同じ文字です。仏教の法は、サンスクリット語のダルマ・パーリ語のダンマの訳語ですが、聖徳太子の十七条憲法で「篤く三宝を敬え」と記される、仏・法・僧(ブッダ・ダルマ・サンガ)の三宝(三つの宝)の一つとして尊重されています。ダルマ・法は、どんなに時代が変わり、社会が変わろうとも、人類が踏み行わなければならない、万古不易の真理・真実という意味です。
法律の律の文字は、仏教で古くからヴィナヤの訳語として用いられ、釈尊の教えがヴィナヤ・ピタカ、律蔵として伝わります。また、自律的自覚的な意味に用いられるシーラ・戒の語と合わせて戒律というふうにも慣用します。悪いことをしない、善いことをする、そして自らの心を正しく清く美しく調えていくという意味です。
したがって法律という語を仏教的に解釈しますと、釈尊の正法に照らして己れのいのちの真実をさとり、自らの人生を律していく、これほどの意味になります。
本学の法科大学院に学ばれる皆さんには、先ずは司法試験に合格して頂くことが当面の目標となりますが、願わくはさらにその上へ、人類のあるべき真実は何か、人間存在の絶対的な真理に照らして現代人の実践規範はどうあるべきか、そんな根本命題を一生かけて温め続けていって欲しいと期待するものです。
釈尊に説法のような贅言をのっけから申し上げて恐縮ですが、どうか健康にはくれぐれも留意され、存分に法律の学問を究められますよう心から願いつつ、一言祝辞と致します。
平成27年9月19日
学校法人駒澤大学 総長 池田 魯參