令和4年度 入学式 学長式辞
新入生のみなさん、本日はご入学誠におめでとうございます。
駒澤大学を代表しまして、皆さんのご入学を心より歓迎いたします。
また、これまで支えてこられたご家族や関係者の皆様にも心よりお祝い申し上げます。
本日、こうして一堂に会し、直接お顔を拝見しながら、お祝いの喜びをお伝えできる入学式は3年振りとなり、大変嬉しく思います。
晴れてご入学の日を迎えられた皆様のご祝辞でありますが、それに先立ち、皆様と共有したいことがございます。今般のロシア連邦によるウクライナへの軍事侵攻について、一言述べさせていただきます。
「仏教の教えと禅の精神」を建学の理念に掲げ、「智慧と慈悲を一身に具える人材の養成を目的に教育・研究活動を行っています本学は、すべての生きとし生けるものにとって、命は等しく尊く、かけがえのないものとして考えています。その尊い命を奪い合う行為に憤りを覚えるとともに、一刻も早く平和がもたらされることを願ってやみません。これから本学で学ぼうとする皆様とともに、この度の戦禍により命を落とされたすべての方々に深く哀悼の意を捧げ、お見舞いを申し上げます。
さて、ご挨拶が遅れましたが、私が駒澤大学学長に就任しまして1年が経ちました。各務洋子と申します。今年、本学は開校140周年を迎え、さらに歴史を遡れば430年を数えます。
この1年を振り返りますと、やはり新型コロナウィルス感染症対応に追われた日々でしたが、その経験を通して、世の中の変化を感じ、また大きな気付きもありました。歴史を振り返れば、100年に一度程度繰り返されてきたウィルスと人類の闘いですが、「IT」という道具を使えたことで大きな進歩がありました。新型コロナ感染症では、世界の様々な国の対応策が比較検討され、様々な研究がなされました。
この1年、学長として注力してきたことが2つあります。
それは、残念ながら今の日本が先進国の中で後れをとってしまった分野です。
1つは、「デジタル化」です。スイスの国際経営開発研究所が5年前から発表している世界のデジタル力を示す指標があります。ビジネスだけでなく、政府、および、より広い社会における経済や社会変革の主要な推進力を示すものですが、日本は主要64か国中、2020年に27位、昨年は28位と低迷しています。
これから皆さんは、本学で高度な知識を身につけることになります。本学で学ぶ専門分野が何であろうとも、デジタル革命を背景とする新しい社会の到来に直面しなければなりません。それぞれの専門分野を通して、どの様に世界に貢献できるのかを考えて欲しいと思います。
駒澤大学では、具体的に、授業の在り方、サークル活動の進め方、留学やキャリア教育の進め方に至るまで、創意と工夫を凝らして、新たな対応を実行し始めています。「デジタル技術」は、生きていく上で必須の「道具」です。デジタル化のメリットデメリットを十分理解して、皆様それぞれが本学でこれから学ぶ学問の領域で、主体的に楽しく使える「道具」を使いこなしてほしいと思います。世界共通の「道具」を使えば、世界中の学生と、様々な社会課題を共有することが可能になります。一気に視野が拡がるはずです。
もう1つは、「ダイバーシティ(多様性)」です。
今年は発表が遅れていますが、昨年3月、世界経済フォーラムが世界各国の男女平等の度合いを示す「ジェンダーギャップ指数」で日本は、156か国中120位でした。先進国の中では最下位でした。「ダイバーシティ(多様性)」とは、そもそもジェンダーという属性だけではありませんが、多様性の中で最も分かりやすい項目が先進国の中で最下位であることは、みなさん是非、問題意識として頭において、4年間を過ごしてください。皆さんが卒業する4年後に、少しでもそれが解消できるように、私もアクションを起こし続けたいと思っています。
本学は、ダイバーシティ(多様性)の尊重による「個を生かす」大学を目指しています。これはSDGs(持続可能な開発目標)の達成や、共生社会の実現にもつながり、グローバル社会で生きていく上で不可欠な取り組みです。「デジタル化の推進」と「ダイバーシティ」の尊重、この2つの柱を基礎にして、皆さんそれぞれの専門分野をどうか深く掘り下げてください。
駒澤大学は、長い歴史と伝統の中で、様々な難局を力強く乗り越え、教育・研究や社会貢献の弛まぬ努力や改革を続け、時代に応じた大学教育のあるべき姿を究明してまいりました。私たちは、建学の理念と教育・研究の本質を見失うことなく、時代の要請にこたえてきたという自負心をもっています。コロナ禍という試練は、私たちに大きな課題を突きつけました。感情的な情報や言動に惑わされることなく、また安易な過敏反応は控え、しっかりとした資料やエビデンスに基づいて熟議し、考え抜いた決断を適確に実行することが、大学生として大切です。
駒澤大学は、長期ビジョン「駒澤2030」として、「自他協創」を掲げています。
この造語は、建学の理念に基づく「自利・利他」(自利とは、自己の修行により得た功徳を自分だけが受け取ることいい、利他とは、自己の利益のためでなく、他の人々の救済のために尽くすことをいいます)を一言にまとめた「自他」と、人と人とをつなげるネットワークを活用し、革新的なアイデアを生み出す力を表現したビジネス用語である「協創」を繋げています。つまり、繋がりを大切にし、ともに社会変化を乗り越えるために、自己研鑽し続ける人材の育成を表現しています。多様なつながりの中で培われた広い視野と、自他への深い洞察により、いかなる状況下においても本質を見極め、人と人との思いの「繋がり」を駆使し、社会変化を乗り越えるための自己研鑽をし続け、卒業後も成長し続ける人材を育成することを目指しています。
入学生の皆さんが人類の英知の結果であるITを最大限に活かす知識と技能を備え、コロナ後の未来社会で活躍する将来を築けるよう、教職員一丸となってサポートして参ります。
140周年を迎える本年10月には、新しい図書館が開館します。
「智の蔵」と名付け、書架を建物の中央に集中させ、上層階に行くほど学びの専門性を高めて、入館者が求める滞在場所を自由に選択できる作りです。多様な学修のスタイルに応じて、時代に即した学修や研究ができる閲覧スペースと学修空間を備えています。
高校までの学びはどの様な問題にも正解がありました。正解にたどり着く道筋も示されていました。しかし、大学の学びは自分で問題に気づくことから始まります。そして、正解は1つではなく、高度な内容であればあるほど、答えは1つとは限りません。自分自身が疑問に思うこと、興味がわくことを、自分で問いかけ、主体的、能動的に、試行錯誤しながら学びます。答えはすぐにはみつからないものですが、その道のりこそが大学での学びの醍醐味です。大学は学問追究の場です。新しい図書館で一人思考に耽る時間、学食で友人と時間を忘れて語りあう時間、大学時代の4年間は人生の中で最も豊かな時間であると私は思います。入学生の皆さん一人ひとりが、充実した実りある大学生活となることをお祈りして、私の式辞といたします。
本日は誠におめでとうございます。
令和4年4月8日
駒澤大学 学長 各務 洋子