令和2年度 9月学位記授与式(卒業式)学長式辞
本日は、ご卒業おめでとうございます。
9月卒業という制度は、世界的に見れば珍しいことではありませんが、日本においても、この9月卒業という制度が徐々に定着してまいりました。それに合わせ、企業等における社員採用についても新たな形が具体化され始めているところです。
3月あるいは9月と、たとえ卒業の時期は異なることになっても、駒澤大学の各学部でそれぞれの「学位」を取得された事は、皆さんが本学で過ごされた学生生活における真摯なご努力の証しであります。そして、そこで磨かれた各種の能力は、今後の皆さんの人生を支える知的・人間的な基盤になると確信しています。私たち教職員にとりまして、皆さんを晴れて社会に送り出すことができます事は、誠に慶賀に堪えません。
さて、ここで皆さんがご入学された時を振り返ってみてください。当時、皆さんはどのような希望をいだいて駒澤大学の門をたたいたのか、思い出してみてください。皆さんが入学された前後の時から国の中央教育審議会の答申などで高等教育の主要テーマに、「課題を自己解決できる人材育成」をめざす「アクティブ・ラーニング」が掲げられ、ますます不透明感の漂う次代の日本を支える若者としての主体的な意欲や能力が、とみに求められるようになりました。もとより、他者の期待にいたずらに振り回される必要はありませんが、みずからの課題や目標をみずから成し遂げたという達成感は、次なる階梯へと進む上で強いインセンティブを与えてくれることでしょう。
本日は、卒業の安堵と喜びを噛み締めるとともに、皆さんご自身の学生生活を振り返り、いかなる成果がもたらされ、どのような課題が新たに生まれたかに思いを致してください。そうした営みを通して、皆さんを待ち受ける未来が次第にその輪郭を現わしてくるはずです。
とはいえ、およそ9ヶ月前から始まった新型コロナウイルスの感染状況は、世界的規模で広がり、我が国の政府や都道府県などの地方公共団体においても、さまざまな対策・対応に追われ、現在に至っております。
駒澤大学は、多くの大学と同様、国や東京都の発する、不要・不急の外出自粛、マスク着用・手洗い励行、三密の回避とソーシャルディスタンスの確保等の要請を踏まえて、キャンパスへの入構禁止、課外活動禁止を決め、また前代未聞となるオンライン授業を原則とし、定期試験を中止しました。このような大学生活における制約は、皆さんはもとより、教職員にとっても未曾有の試練でありました。
この試練を通して、私たちは、多くのことを考え学びつつあると思います。予測不可能な出来事の発生は人知では避けることができない。しかし、諦めてはならない。希望を常に保持し、自分が拠って立つ地歩を確認するとともに助け合い、そして、人類の叡智(医学・科学技術の進歩可能性)と博愛(地域連携・国際協調の方向性)を信じることを、暗い社会を照らす灯火として高く掲げることが大切だと思います。
皆さんがこれから進みゆく社会は、AI、IoTなどの高度な科学技術の成果と、「心」という人間の本質的特性との共存の時代です。果たして「人間中心社会」になるのか、そうとすれば、それはどのような社会なのか。あるいは、「AI中心社会」になるのか、その社会で人間はどう生きるのか。これらの問題についての確かな答は誰も持ち合わせていない。皆さんを待ち受けているのは、こうした不可測の社会であり、時代であります。
皆さんには、本学のブランド・スローガンである「しなやかな、意思。」をもって、換言すれば、本学の伝統的な「仏教と禅」の精神を活かして、次世代を生き抜いて欲しいと願っています。
私は、約4年前、学長に就任するに当たって、「学生ファースト」を大学運営の基本方針としました。大学の使命は、学問研究の発展に寄与することではありますが、学問研究は、人間のためのものであり、学生を育てるものでもなければならないと考えていました。
本日卒業される皆さんは、「学生ファースト」の基本方針の下で学び育った、いわばこの方針の申し子であります。これからも当方針の基底を成す「しなやかな、意思。」というブランド・スローガンを座右に置いて、新たな目標に向かって歩み出されるよう念願しています。皆さんの前途に幸あれ。
以上をもちまして、私の式辞といたします。
令和2年9月19日
駒澤大学学長
長谷部 八朗