平成30年度 9月学位記授与式(卒業式)総長祝辞
本日ここに平成30年度駒澤大学学位記授与式にあたり、晴れて卒業される86人の皆さん、ご卒業おめでとうございます。この日を心待ちにし、長い間ご子女の学業成就を物心両面からご援助くださったご親族の皆々さまに対し、ご来賓の関係各位と共に教職員一同心からお祝い申し上げ、尽心の謝意を申し述べる次第です。
卒業生の皆さん、本学でのキャンパスライフはいかがでしたか。専攻学科の講義や演習、ゼミ、課外活動や部活動で、最新の学問や技能を修得することができたでしょうか。本学で学び得た新しい知見をこれから社会で存分に活用してみようと意気込んでおられるのではないでしょうか。
今年になって、2月10日に 石牟礼 道子 さんが亡くなり、2月20日に 金子 兜太 さんが相次いで亡くなりました。皆さんがこの世に生れる前、半世紀も前のこと、石牟礼さんは名著『苦海淨土』を刊行し、チッソ工場が出す、有機水銀の排水で汚染された魚を食べて、水俣病に罹った人の惨状を訴え、自然や共同体を破壊してまで成長拡大を求めて止まない現代の病理に警鐘を鳴らし続けました。
また、金子さんは、海軍中尉として南洋のトラック諸島に赴任し、73年前の終戦を25歳で戦地で迎え、「戦争ほど恐ろしいものはない」「人間は戦争で犬死したりせず、何もしなくても生き永えるだけで尊い」と訴え続け、終生戦後の新しい俳句の表現者として活躍されました。敬愛するお二人の生き方から、地球規模、宇宙規模で縁起し連鎖している生命体のリアリティーに想いを致し、環境の保全に努め、戦争のない平和な日常生活を実現し持続させるために、私たちはどうしなければならないか、真剣に立ち向かわなければなりません。
また厚生労働省が8月30日に発表した速報値によりますと全国の児童相談所が2017年度に対応した18歳未満の子どもへの虐待件数は、13万3778件で、前年度より1万1203件(9.1%)増え、調査を始めた1990年度から27年連続で増え続けているということです。人権が尊重され、幼い命が温かく見守られ、誰も置き去りにしない、そんな幸せな社会を建設するために私たちは力を合わせなければなりません。
幸い本学で禅・仏教を学ばれた皆さんは、仏の智慧と慈悲の哲学をバックボーンにされ、すべての事象は無常であり、人生は一瞬の出来事であると弁え、人のいのちははかなく、もろく、いとおしいものであって、自分のいのち同様スペアのないたった一つの尊いものであることを心に刻みつけ、社会の隅々に相手を思い遣る人間関係を創り出していただきたいと願います。
永平寺のご開山道元禅師はブッダの生き方を敬慕し、ブッダの坐禅を日課としました。先ず姿勢を正し、呼吸を調え、心を平静に保ち、内から露わになるいのちのリアリティーに想いを致し、自分を後回しにしても他人(ひと)のためにしてあげる、そういう人間になりたいと願い、そのように生きられたのでした。
本学で坐禅の教えを学んだ皆さんは、一生ブッダの智慧と慈悲の教えに学び続け、人生のどんな苦難に出会っても逃げることなく、自身の問題としてひき受け、誉りを持って世の為、人の為に働かれるよう念願して止みません。全ては己れの生き方一つにかかっている、道理です。
これから各界で雄飛される皆さんの、力強く美しい将来の姿に想いをはせつつ、一言、祝辞といたします。
平成30年9月22日
学校法人駒澤大学
総長 池田 魯參