平成28年度 9月学位記授与式(卒業式)学長式辞

Date:2016.09.22

駒澤大学法科大学院修了者1人、学部卒業生67人、合わせて68人の皆さんの卒業・修了を心よりお祝い申し上げます。皆さんが駒澤人として、大きく成長された姿で良き日を迎えらましたことは、私たち教職員といたしましても喜びとするところです。ご臨席の保護者の皆さまにおかれましても、厳しい社会情勢の中でのご労苦はいかばかりであられたかを拝察申し上げ、心より御慶び申し上げます。

さて、この度のリオオリンピック・パラリンピックの日本選手の活躍に多くの感動を覚え、勇気を頂いているところであり、また、皆さんの在学時代には、スカイツリーの完成、東京オリンピックの誘致、北陸新幹線の開業という慶事もありました。しかし、皆さんを迎えます社会は混迷を深めているといえましょう。2011年3月11日の東日本大震災・原発事故以来、台風・大雨等の激甚災害は後を絶たず、本年4月14日・16日に起こった熊本地震でも多くの犠牲者と被災の方々を出しました。また、グローバル化に伴い、伝統社会は揺らぎ、変化し、民族間紛争とそれと表裏の関係にある宗教的対立が頻発し、難民は激増し、多くの国で社会不安が拡大しています。我が国でも少子高齢化に伴う社会活力の低下や経済・社会・地域格差が叫ばれております。

これから、卒業されていく門出の皆さんに、なぜ、このような厳しい状況を述べるのかと申しますと、それは、厳しい社会の中でも、皆さんは立派に社会に貢献してゆけると確信しているからです。長い本学の伝統を引き継ぎ、建学の理念に基づいた教育を受け、思いやりのある人間味にあふれる駒澤人力を身につけているからです。本学で学んだ皆さんには、優れた教授陣から学んだ専門の学問、豊富な教養とともに、社会に向かって誇れるものが、自然と身についていると思うからです。

本学は他大の追随を許さない歴史とそれに付随する興味深いエピソードを数多く持っております。本学は我が国はもとより世界的に見ても長い歴史と伝統を持つ数少ない大学の一つです。本学の前身の前身である吉祥寺は、今からおよそ550年ほど前に、江戸東京の祖とされ、武人としても歌人としても知られる太田道灌によって、江戸城とともに建てられました。そして1592(文禄元)年、徳川家康が江戸に入城して3年目、堀の外に出ました吉祥寺の中に学寮(後の旃檀林)ができました。本学の前身です。約420年前のことで、水道橋のたもとにありました(『江戸屏風図』佐倉歴民博蔵)。

江戸時代の前半、1657(明暦3)年、江戸城天守閣まで焼き尽くした振袖火事によって吉祥寺・学寮は駒込・本郷近くに移転し、門前の住民は五日市街道沿いの地を開拓し、もといた寺の名を地名とし、「吉祥寺」と称したとされます。今の吉祥寺です。なお、焼けた天守閣は再建されず、現在に至っておりますので、TV等で将軍吉宗時代に天守が見えましたなら誤りと言うことになります。

明治期を迎えて、1882(明治15)年、麻布北日ヶ窪、現在のテレビ朝日・六本木ヒルズの地に近代的な大学として開校いたしました。134年前のことです。それから、30年後の1913(大正2)年に駒沢の地に移転してまいりました。103年前のことです。同年には、東京ゴルフ倶楽部が近くに、日本人が初めて造成したゴルフ場を発足させております。現在の駒沢オリンピック公園です。

本学で最も古い建物は、1928 (昭和3) 年に建てられた、レンガ造りの禅文化歴史博物館です。東京都選定歴史的建造物となっております。菅原栄蔵という人物の設計で、ビアホール銀座ライオンも彼の設計として知られています。また、深沢キャンパスの洋館は禅・茶の湯と関係の深い数寄屋風の設計で知られる吉田五十八氏の設計で、首相官邸に似ていることからロケ地としても知られています。

また、禅の大学らしさを一層深めるために、図書館前や記念碑の前に枯山水の石庭を造り、金閣寺垣や建仁寺垣などの竹垣を施し、砂紋(風紋)が描かれております。

そして、皆さんには工事中の不便をおかけ申しておりますが、来年12月にはメインの開校130周年記念棟が完成いたします。新校舎は9階一部4階で、グループ学習ができるPC教場など、最先端の設備を備えたもので、南側には公園の深い緑が広がります。また、1階には明るく広い食堂が入ります。どうぞお越し願えればと存じます。お待ちいたしております。

このような伝統・歴史と新しさの中で、皆さんは学んできました。この皆さんの駒澤大学は、仏教の教えと禅の精神を建学の理念としてきました。この建学の理念は、永きにわたり「行学一如」という言葉で表されてきました。「行」とは自己陶冶(とうや)、すなわち自己形成のこと、「学」とは学問研究のことで、それらは一体であると考えます。

「行学一如」は、特に「行」の重要性を教えます。常にアクティブな姿勢で学問研究に取り組む「行」によって、「学」が自分の血・肉となります。高みに登り詰めた姿だけが尊いのではなく、目の前の一歩を大事に踏みしめて行く姿、努力する今の姿が尊いのです。皆さんには、この建学の理念がしみ込んでいるはずです。

また、禅の言葉に「随処に主となる」という言葉があります。集団の中で、自分はどうせ歯車だから、人の後からついて行けば良い、という考えはやめて、いかなる場でも、集団の中に飲み込まれることなく、自分のできる仕事は何かを見出してゆく、見つけ出してゆく積極さが必要です。皆さんが主体性をもって、積極的に行動されることを望みます。

これらのことは、みなさんに、ことあるごとに申し述べて来たものでありますので、おのずと、皆さんには身に付いているものと思います。皆さんの卒業に際し、改めて申し述べさせていただきました。「行学一如」、「随処に主となる」を実践していって下さい。皆さんへの贈る言葉といたします。

クールジャパンの原点である禅の大学、禅の心で人を育む大学、駒澤大学で学んだことに自信を持って、堂々と生きていって欲しいと思います。実社会という荒海に乗り出す皆さんに幸多からんことを祈念いたしましてご卒業の式辞といたします。本日は誠におめでとうございます。

平成28年9月17日

駒澤大学学長
廣 瀬 良 弘