平成27年度 9月学位記授与式(卒業式)総長祝辞
本日晴れて学位記を授与された67人の皆さん、おめでとうございます。合わせてこの日を楽しみにして長い間、物心両面にわたり陰に陽にご援助下さった保護者、ご親族の皆さまにも心から感謝申し上げ、お祝い申し上げます。
本日、卒業される皆さんは、人生で最も命の濃い青春時代の一ときを本学で過ごされ、これまでの学園生活を振り返って、様ざまな出会いを想い起こしていることと存じます。あの講義、このゼミ、部活動などを通じて親交を深めた友人たち、種々御指導頂き、お世話になった教職員の先生方、諸地域で出会った忘れ得ぬ人々、一コマ一コマがなつかしく思い出され、正に一期一会の大切な出会いであったことに気づかされます。
顧みれば多くの皆さんが入学された平成23年4月、直前の3月11日午後2時46分に東日本大震災が発生し、直後に大津波、福島原発事故に襲われ国中が悲嘆に暮れていたときでした。あれから4年半の月日が経ったのに被災地の復興は思うに任せず、人々の不安は募るばかりです。近年は追い打ちをかけるかのように集中豪雨による土石流災害が各地に頻発し、河川の堤防決壊で家屋や農作物に甚大な被害が生じ、被災地の方々の生活がおびやかされています。
さらには、血も凍る凶悪事件が引きも切らず起り、経済格差による子供の貧困があれば、家庭では育児放棄や虐待、教育現場では、いじめや体罰などの深刻な問題が山積しています。
国外に目を転ずれば、隣国の中国・韓国・北朝鮮との長年にわたる未解決の難題があり、さらには過激派組織IS、タリバン、ボコハラム外のテロリズムが横行し、各地で暴力的な報復戦争がくり返され、故国を失った難民が集団移動を始め西欧諸国は難民受け入れで揺れています。さらに早くから警鐘が鳴っていた地球規模で進行している環境破壊の問題は未だに有効な方策も見つからないまま放置されている状態です。
もとより人生は重荷を負うて遠き道を行くが如きものなのでしょう。
釈尊も人生は苦である、思い通りにはならないと教えています。
何はともあれ、本学を卒業される皆さんには、どんなに困難な局面であろうと逃げることなく姿勢を正し、呼吸を調え、心を澄ませ、いのちの原点に立ち帰って解決の糸口を見出すべく冷静にねばり強く前向きに生きて行ってほしいと願っています。
4年前、56歳の若さで亡くなったアップル社の創業者であるスティーブ・ジョブズ氏は、周知の通り本学の建学の理念になっている曹洞宗の坐禅を学ばれた方ですが、スタンフォード大学で行った講演で"Stay hungry, stay foolish"と学生たちに呼びかけました。この言葉は、道元禅師の「怠らず努力せよ愚直に生きよ」という教えを受けています。また、京セラ、KDDIの創業者でJALの再建を成し遂げたことでも高名な稲盛和夫氏とIPS細胞でノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥氏との対談が『賢く生きるより辛抱強いバカになれ』という題名の本になっています。ここでは一貫して利他の心で生きよ、世の為人の為になる正しい道を行けと語りかけています。全ては何の為に生まれ何をして生きるのか、己れの生き方一つにかかっているといっていいでしょう。
皆さんには本学で修められた専門の学問技術を、さらに禅仏教の智慧と慈悲の心で包み込んで、社会の中で存分に働いて頂きたいと念願するものです。
各界で雄飛される皆さんのたくましくも美しい将来の姿に想いをはせつつ、一言祝辞と致します。
平成27年9月19日
学校法人駒澤大学 総長 池田 魯參