ザ・フェデラリスト(アレクサンダー・ハミルトン、ジョン・ジェイ、ジェームズ・マディソン著)
Date:2019.05.01
書名 「ザ・フェデラリスト」
著者 アレクサンダー・ハミルトン、ジョン・ジェイ、ジェームズ・マディソン
訳者 斎藤 眞、中野 勝郎
出版者 岩波書店
出版年 1999年2月
請求番号 080/6-2157
Kompass 書誌情報
想像していただきたい。もしあなたが、とある広大な領域に新たな国家を建設しなければならないとしたら、どのような国家を設計するだろうか。無条件だとイメージしにくいかもしれない。三つほど条件を付け加えよう。①その領域は、かつて君主制国家による支配から戦争によって独立を果たしたものとする。②その領域は国家不在の地域ではなく、政治、経済、文化、社会的側面から異なる歴史を歩んだ13の国々によって構成されており、新たな国家はそれらを統括する上位国家だとする。③その領域を隔てる外海の先には、彼らが到底敵わない大国がひしめいており、その領域の利権を虎視眈々と狙っているものとする。
様々な設計像が頭をよぎる。例えば、かつての君主制国家による支配の経験から、君主制は避けたほうがよいかもしれない。では、国家元首はどのように決めるのか。民衆によって選ぶのか。いや、民衆が扇動政治家に唆される危険性はないか。それに、国家元首がいつ何時、暴政を敷くかもわからない。国家元首の権限をいかにして抑制すべきかについても検討しなければならないだろう。
また、もし議会を置くならば、13の国々それぞれの利害が事態を複雑にするかもしれない。すなわち、人口の多い国は人口比例による議席配分を求め、人口の少ない国は各国同数の割り振りを求めるだろう。13の国々のうち、少数の国々の利害が蔑ろにされてしまう制度にならないよう注意を払う必要もあるだろう。
それから、その領域の上位国家に対する根強い反発も懸念材料になる。13の国々をまとめ上げ、強力な権限を委ねた上位国家を建設しなければ、外敵から身を守れない。その一方で、それはかつて植民地だった状況と何が異なるのかと猛反発を受けてしまいかねないため、新たな国家の権限は極めて慎重に定めなければならない。
こうした空想は、空想であるがゆえに楽しめるものであるが、ひとたび現実となれば、その困難さは計り知れない。かつて、まさにこのような状況に直面し、世論に新国家の諸制度案とその意図を訴えて支持を得るべく執筆されたのが本書である。そして、実際に建設された国家こそ、アメリカ合衆国である。是非、当時の人々の苦労に思いを馳せながら読んでいただきたい。
法学部 講師 梅川 葉菜