うろんな客(エドワード・ゴーリー著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2019.06.01

書名 「うろんな客」
著者 エドワード・ゴーリー
訳者 柴田 元幸
出版者 河出書房新社
出版年 2000年11月
請求記号 726/283
Kompass 書誌情報

先日ゼミで輪読をしていた際、あるゼミ生の意外な趣味を知ることになった。タロットカードだ。彼は、初めて出会った人とコミュニケーションをとるためのきっかけづくりとして、タロットを活用しているのだという。信じる、信じないは別として、みんな占いが大好きだ。ゼミでも輪読は一時中断となり、「先生」のもとに迷える子羊たちの行列ができてしまった。

マーケティングについて学んでいるときに、ゼミ生の意外な面を知る。このような思いもよらない偶然の発見を、「セレンディピティ」と呼ぶそうだ。今回取り上げる本も、私にとってはまさしくそれだった。

少し前のこと、吉祥寺にあるカフェで、店内に置いてあった絵本を何気なく手にとり衝撃を受けた。登場する子どもたちが次々と、それも淡々と死んでいく様子が描かれていたのだ-ある者はライオンに食べられて、あるものは炎に巻かれて-。しかし、残虐さや趣味の悪さは感じさせず、むしろおかしさすら込み上げてくる絵本だった。この不思議な作品を著したのが、エドワード・ゴーリーというアメリカの作家である。子ども殺しというタブーをあっさりと犯し、ある種ユーモラスに描いてみせたゴーリーに魅了され、しばらくの間、彼の作品に読みふけってしまった。

今回紹介する『うろんな客』は、私が最もお気に入りの作品だ。ストーリーは、いたってシンプルである。ある日、奇妙な姿をした「うろんな客(=怪しい客)」が一家の前に現れ、家に居つくようになる。客人は、本を破いてみたり、家のバスタオルを隠してみたり、煙突をのぞき込んでみたり、理解不能な行動をとり続ける。「もし自分の家にこんな客が来たら、迷惑だな...」そんな風に思わずにはいられない。

しかし、最後の1ページで、ゴーリーにまんまとやられたことに気づき、うろんな客への思いは一変する。訳者の柴田元幸氏の解説にも思わず頬が緩んでしまった。「絵本なんて子どもみたい...」と思ったあなたにこそ、ぜひとも読んで欲しい、大人のための1冊である。あなたにとってのセレンディピティとなりますように。

経営学部 講師 武谷 慧悟

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