その島のひとたちは、ひとの話をきかない―精神科医、「自殺希少地域」を行く(森川 すいめい 著)
Date:2024.10.01
書名 「その島のひとたちは、ひとの話をきかない―精神科医、「自殺希少地域」を行く」
編著者 森川 すいめい 著
出版社 青土社
出版年 2016年
請求番号 493.7/969
Kompass書誌情報
ドキッとするようなタイトルの本書は、オープンダイアローグでも有名な著者が、自殺者が少ないいくつかの地域を実際に訪ね、体験したことを普段使いの言葉でまとめたものだ。著者はよそ者としてその地域にお邪魔するのだが、どの地域の人たちも困っている著者を当たり前に助ける。そのなかで著者は、自殺希少地域の人たちを、「相手が何かに困っていて自分が助けられることがあるならばいっきに助け」、「ひとを助けるのにおいて相手の気持ちをあまり気にせずに助けようとする」人たちなのだと思うようになる(p.115)。そして、それができるのは、「たくさんのひとと出会い」、「コミュニケーションに慣れ」、「ひとが多様であることを知」っているからだと考察する(pp.52-53)。
相手の気持ちをあまり気にしないというのは、相手の気持ちを無視することとは違う。相手はこんなことを求めているのでは?と先回りして考えてしまうと、自分にできないことを無理にやろうとして疲れたり、できない自分を責めたり、助けること自体を諦めたりしてしまうかもしれない。それでは、困っている人も自分もつらい。相手が困っている時に自分は何ができるか考えて行動し、相手がこちらの助けを受け取らないなら相手の困りごとを解決できそうな人に繋ぐ。そうすると、困っている人の問題は解決するし、自分も自分を責めなくて済む。
自分と相手は違っていていいし、違うのは当たり前だ。だから、相手軸ではなくて自分軸で考えていい。ただし、相手も自分軸を持っているから、お互いの自分軸を尊重しあいながら助けあおう。これが、本書の伝えるメッセージだと思う。皆さんも大学時代に、たくさんの人に出会い、コミュニケーションを通じて多様性を理解する経験を重ねてほしい。自分だけでなく、相手だけもなく、自分も相手も大切にできるような社会が当たり前になれば、今よりも生きやすいと感じる人が増えるだろう。
文学部 准教授 鬼塚 香