カモメに飛ぶことを教えた猫(ルイス・セプルベダ 著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2024.02.01

書名 「カモメに飛ぶことを教えた猫」
著者 ルイス・セプルベダ
訳者 河野 万里子
出版社 白水社
出版年 2019年4月
請求番号 電子ブック
MeL(Maruzen eBookLibrary)

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2年前、我が家に子どもが生まれた。不安とその他の感情が99:1くらいだったので、わけもわからずいくつかの本を読んで子育てについて学ぼうとした。なかでも印象に残った一冊が、「カモメに飛ぶことを教えた猫」だ。

舞台はドイツの港町ハンブルク。主人公はふとった黒猫のゾルバ。ある日、彼が日光浴をしていると、原油にまみれた銀カモメが飛来してくる。自分の命が短いことを悟ったカモメは、ゾルバに3つの厳粛な誓いを立てさせる。これから生む卵を決して食べないこと。ひなが孵るまで卵のめんどうをみること。そして、大きくなったひなに飛び方を教えること。猫の中の猫、誇り高きゾルバは約束を守ることを誓う。港町に暮らす猫の仲間たち、<大佐>や<秘書>、<博士>や<向かい風>らとともに、立て続けに起こる危機を乗り越えて子育てに奮闘する姿を描く。

ゾルバがひなを育てるのは、母カモメとの約束を果たすため、港の猫の名誉を守るためにすぎなかった。しかし一緒に暮らすうちに、ゾルバは、約束を果たすためではなく、心からひなを愛し、ほんとうの意味でひなに空を飛んでほしいと願っていることに気づく。ゾルバがひなに「異なる者どうしの愛」の尊さについて話すシーンは特に胸を打たれた。

本書は猫がカモメを育てる話だが、人間の子育ても似たようなものだと思う。私と私の子どもは異なる。食の好みも、見たい景色も、世界の捉え方も違う。飛び方もきっと違うから、私には飛び方は教えられない。ただ親にできることは、ゾルバのように、「約束」に駆り立てられながらも、愛に気づくことだけなのだろう。

最近若者を対象に行なったアンケートで、約半数が「子どもをほしいと思わない」と回答したというニュースをみた。理由は子育てに対する不安が主だった。そんな若者たちに、本書を薦めたい。私のように、ゾルバとその仲間たちから勇気と優しさをもらえるだろう。

経済学部 講師 河田 陽向

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