木のいのち木のこころ:「天・地・人」(西岡常一, 小川三夫, 塩野米松著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2022.09.01

書名 「木のいのち木のこころ:「天・地・人」」
著者 西岡 常一、小川 三夫、塩野 米松
出版社 新潮社
出版年 2005年8月
請求番号 526/48
Kompass書誌情報

現存する世界最古の木造建築である法隆寺。その法隆寺の解体修理に棟梁として携わったのが宮大工の西岡常一である。彼は法隆寺に代々仕える大工の家に生まれた。飛鳥建築の第一人者として、薬師寺伽藍の再建等にも当たっている。

塩野米松による聞き書きであるが、本書から私たちは、西岡の技と知恵について、また彼の唯一の内弟子小川三夫との師弟関係や、小川と彼の弟子たちとの関係について知ることができる。

西岡によれば、宮大工は樹齢1000年を超える大木(檜)を扱う。命への敬意が不可欠なのだ。また木は一本一本異なる癖を持つ。だから宮大工に必要なのは、「それぞれの木の癖を見抜いて、それにあった使い方」をする技や知恵である。それは「木のいのちを生かす」ための技、知恵である。

西岡が祖父から受け継いだその技と知恵は、弟子や孫弟子へと受け継がれていった。
それを可能にしたのが、いわゆる「徒弟制度」だ。その基本は、師匠と弟子が寝食を共にすることである。宮大工の技や知恵(それは宮大工としての生き方でもある)は仕事場だけでは身につかないからだ。一緒の空気を吸って、師匠のすべてに注意を払うことが必要だ。

宮大工の技自体、言葉では教えようがない。やって見せるだけだ。小川によれば、西岡は「鉋屑かんなくずはこういうもんや」と、鉋をかけてその鉋屑をくれただけである。小川はその鉋屑を眺めながら、毎日毎日、木を削った。自分で考えてやってみる、これを繰り返すことで手に記憶させていったのだ。

小川には20人程の弟子がいる。徒弟制度の基本を変えずに時代に合わせるために、共同生活の場でもある鵤工舎を設立し、師匠だけでなく弟子の先輩が後輩を育てることにも期待した。

自然への謙虚さを忘れてしまったり、他者に教えてもらうことに慣れてしまった私たちに、本書は、そうでないあり方が人生や世界にどのような果実をもたらすかを考える機会を与えてくれるだろう。

総合教育研究部 教授 豊田 千代子

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