白と黒のとびら(川添 愛著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2019.01.01

書名 「白と黒のとびら」
著者 川添 愛 
出版者 東京大学出版会
出版年 2013年4月
請求番号  007.1/236
Kompass 書誌情報

気まぐれに立ち寄った書店での「サイエンスフェア」。様々なサイエンス本の中で、ひときわ異彩を放っている本でした。西洋の古文書めいた表紙をめくると、「この本に書かれているのは、偉大な魔法使いに弟子入りした平凡な少年の物語です。・・・」という一文で内容紹介が始まっています。

読んでみたら、とにかく「何重にも味わえるおいしい本」でした。字面を追うだけで、『ハリーポッター』シリーズや宮部みゆきさんの『英雄の書』を思い出すような、ファンタジー作品として堪能できます。もう少し深読みして、次々登場する謎を考え、謎解きやパズルを解く楽しみも味わえます。更に、文学的な楽しみとして、「人間的な成熟」などについて考えを深めるのも一興です。魅力的な登場人物達が、人生指南にも通じるような、心で噛みしめたくなるセリフを随所で吐いてくれています。

そして、大学生として是非味わってほしいのが、学問的な喜びです。もともと著者のねらいは、オートマトンや形式言語という情報科学や数理科学の基礎概念を紹介することにあります。門外漢である私も、形式言語という普段なじみの無い学問的概念が、実は生活と密接に結びついていることを学ばせてもらいました。読書を通して、自分の専門とは違う分野に自然と視野が広がっていくのは、まさに「学ぶ喜び」と言えるものでしょう。もっと学んで世界を広げてみたくなった人のために、最後に「解説」がついているのも、学問的入門書として優れている点です。

ちなみに、既に続編『精霊の箱』も数年前に出版されており、続編では物語の世界が一気にスケールアップし、学問的内容はかなりのレベルアップ。理論を全部理解できなくても大丈夫、読み応えは充分です。

誰でもいろんな楽しみ方で読める本だと思いますが、本が大好きで月並みな読書体験では飽き足らなくなっている人には特にお勧めします。

総合教育研究部 教授 持丸 真里

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