2023年度経済学部奨学論文受賞者の研究報告
2023年度経済学部奨学論文において佳作を受賞した熊谷直政さんによる研究報告です。
論文タイトル:
法人税法に規定する過大役員給与税制についての一考察 -残波事件を中心として-
熊谷直政
【テーマ選定理由】
私は税理士試験の勉強をしている中で、税法における不確定概念規定について興味を持ちました。不確定概念規定は、税法の大原則の1つである租税法律主義の観点から問題があると指摘されることもありますが、税法が対象とする課税事象についてあらかじめ予測されるあらゆる場合を具体的に決定することは立法技術上限界があるとされることから、抽象的概括的な表現が認められている規定のことをいいます。しかし、不確定概念規定があることで課税庁の自由裁量が行われる恐れがあるという弊害が起きており、税法に従って申告しなければならない納税者は追徴課税を恐れ、保守的になってしまうことが考えられます。
私は不確定概念規定の中で、法人税法34条2項の「不相当に高額」な役員給与(過大役員給与)を損金の額に算入しないという規定に注目しました。役員給与に関する税法は日本経済を支える中小企業に多大な貢献をする役員のパフォーマンスに大きく影響する重要な論点のため、企業の個別事情を反映した客観的な基準に基づいて役員給与適正支給額を決定することができないか検討したいと考えました。
【研究結果】
本論文では過大役員給与税制の不確定概念規定について争われた残波事件を分析し、「不相当に高額」であるかどうかを倍半基準(規模の類似性の観点から売上高が0.5倍から2倍の範囲内の同業者を抽出する方法)により抽出された類似法人との比較のみで判断される方法は、企業の個別事情を反映することができないことや納税者の予測可能性が失われていること等から不当ではないか検討しました。そこで、その問題点の解消法の1つとして、抽出範囲を売上高5倍基準とし、アメリカの税制(多要素テスト)を参考にして類似法人との比較のみではなく企業の個別事情を反映した適正支給額を検討する方法の可能性を探りました。この方法によれば、売上高5倍をもって類似法人と比較する基準は、一見して明らかに高額な利益処分に当たる支給のみを対処する基準として設定され、企業の個別事情の勘案を中心とした役員給与適正支給額を決定することが期待できるのではないかと考えられます。
しかしながら、 この方法には抽出基準として売上高のほか様々な方法(自己資本利益率等)が考えられることや企業の個別事情を反映する要素の数や重要性が不確定であることなどの検討の余地が残っています。わが国において適用する際は、アメリカの積み上げられた判例法理等を参考に、わが国に適した方法を検討する必要があります。
以上のことから、過大役員給与税制の不確定概念における問題解消を目的に研究しましたが、わが国の判断基準について売上高5倍基準の方法とアメリカの多要素テストなどの個別事情を反映する基準を採用することにより、明らかに不当な支給を損金不算入とし、企業の個別事情を十分に勘案するものにすべきではないかと考えます。