学部長あいさつ

Matsuda2025

経済学部長 松田健

 近年ではA.I( Artificial Intelligence:「人工知能」と邦訳されます)の話題を聞かない日はありません。脅威論、期待論の両面から多くの言説が展開されている中、ビジネスの現場では生成A.I.の利用がさまざまな場面で進められています。古くはルネサンスが、またそれ以降であれば産業革命やモータリゼーションの進展、コンピュータやI C Tの発達あるいは宇宙開発などと並び、A.Iの誕生は今後のわたしたちと科学との関係性を大きく変容させるのみならず、大きなインパクトとなって私たちの社会そのものを変えていく、人類にとってのマイルストーンになるだろうといわれています。
 人間が個人として学び、積み上げ、そして普段から利用できる知識の量はWEB上にほぼ無限に存在するデータ量に比べるとずっとずっと少ないでしょうし、ましてそれにアクセスして物事を極めて速く処理できる能力を備えた生成A.Iには、情報処理というステージで人間は敵いません。
 しかし、人の世の中はそれほど単純ではありません。A.Iの機能が凄まじく発達しても世の中にあるさまざまな課題事項の解決、つまり「正解」に辿り着くことはそう容易ではないでしょうし、そもそも何が「正解」なのか、白黒はっきりとは言えないのが現実の世界です(とはいえ、どこかで折り合いをつけて前に進むということが求められもしていますが)。
 このような現実に今まさに直面しているみなさんは、大学生としてどのようなものを獲得していくのでしょうか。また、講義で触れるさまざまな知見から、どのようなものを紡ぎだしていくのでしょうか。
 大学は確立した知識をただ学ぶ、ただ覚えるというところではありません。もちろんのこと、過去に遡り、歴史の多様な側面を整理するということは大切な試みです。これは過去をよく知った上で現在の社会システムを分析するという「過去から未来につながっていく」ために必要なことです。過去の出来ごとを、ただ単に覚える、というものではなく、そこから何を学ぶのか、ということが歴史を学ぶ大きな意義のひとつです。
 他方、そもそも今現在の世界の構造でさえ簡単にわかることでばかりありません。私たちの社会は極めて高次な多くのシステムの複合体であり、それらは日々、互いに干渉し合いながら変容しています。長い歴史の中で、多様な習慣や規範も含め、多くの人々の手によって作り出されてきたこの世界を多角的に見て、整理し、理解することは簡単ではないのです。

 長い歴史の中で培われてきた学問とは、言うなれば、未知なるものに挑む試みであります。
 世界が多元的な存在であり、ある課題に対する、いわゆる「正解」はひとつではないということを認めることはとても重要です。正解は1つである、という考え方のみでは、社会の分断を招くことにつながります。
 多元的な世界の構造に向き合うためには「未知なるものに挑みつつ、物事を客観的に捉え直す」という作業が必要となりますが、一方でこれはとても骨の折れることです。しかし、大学での学びを通じてなんとかそれを試みて欲しいと思っています。
 みなさんが多くの学問上の成果・知見に触れ、理論や思考法を学ぶことで得た力は、「今までよりももう少し良い世界」を作り出す力に繋がっていきます。これを手にするためにも、ぜひ、多くの出会いに中で、さまざまな取り組みにチャレンジしてみて下さい。みなさんが楽しく、実りある学生生活を送られるよう、私たち学部スタッフ一同も一緒になってサポートしていきます。23区の中でも緑豊かで比較的ゆっくりとした時間が流れる世田谷区駒沢で、のびのびと、そして真摯に学業に向き合って下さい。みなさんには、いつの日か、物心両面で豊かな未来を創造し、誰かの幸せの創造に寄与できるような人になって欲しい。これがわたしたちのみなさんに対する願いです。駒澤大学経済学部でのこれからのみなさんの生活が豊かなものになるよう、祈念しています。