バブル後の金融危機対応 全軌跡1990~2005(伊藤 修著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2024.04.01

書名 「バブル後の金融危機対応 全軌跡1990~2005」
著者 伊藤 修
出版社 有斐閣
出版年 2022
請求番号 電子ブック
MeL(Maruzen eBookLibrary)
電子ブック利用方法(駒大生専用マニュアル)

本書のテーマは、日本の金融システム危機(1990年代~2000年代前半)とそれへの政策対応の全経過(!)を丹念に整理し、将来起こりうる新たな危機に備え教訓を引き出すことである。周知のように、この時の金融システム危機は、長期に渡る日本の経済停滞・社会閉塞の発端であり、その意味で歴史の転換点となった。上記の期間に、大手銀行を含めて約180もの銀行(預金取扱金融機関)が破綻した。また、金融当局は危機を未然に防ぐことができなかっただけでなく、事後的な危機対応にも盛大に失敗し、最悪の事態を招いてしまった。

日本金融史の専門家の手になる本書は、金融危機や金融行政に強い関心を持つ私にとって待望の著作であった。と言うのも、著者も書いているように、このテーマに関する主要な著作は、多くが実務家や政治学者によるものであり、経済学における研究成果は目立ったものが少なかったからである。

テーマの重要性にも関わらず、経済学分野からのアプローチが少ない理由について、著者は「歴史をやる若い人」の減少を挙げている。ここで言う「歴史をやる」とは、古文書を読み解くことではない。「事実(fact)や経過(process)を徹底的に追及して(その意味で実証的〔empirical〕に)分析する構えと持久力、複眼的視野と一定のノウハウ――あわせて能力をもつ」ことである。また「経済関連であっても政策や行政を扱うには、政治・社会等々の近接分野にまたがって調べることが当然必要である」とも述べている。つまり、既存の学問の枠組みに囚われることなく、徹底して長期間・多様な分野に渡る膨大な事実に当たり、その本質を読み解いていくという途方もない作業を行うことである。確かに、そのような作業を抜きに本書は実を結ばなかっただろう。

私は経済史・金融史の専門的な訓練を受けているわけではないが、著者の言う「歴史をやる若い人」でありたいと思う。そう再確認させてくれたという意味でも本書は私にとって良書である。もちろん、内容が専門的に優れていることは言うまでもない。因みに、著者の前著『日本経済の《悪い均衡》の正体 社会閉塞の罠を読み解く』(2016年、明石書店)では、日本の停滞・閉塞についての総合的考察を行っているので、併せて推薦したい。

経済学部 教授 新井 大輔

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