地図は語る:データがあぶり出す真実(ジェームズ・チェシャー、オリバー・ウベルティ著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2023.10.02

書名 「地図は語る:データがあぶり出す真実」
著者 ジェームズ・チェシャー、オリバー・ウベルティ
訳者 梅田 智世、山北 めぐみ
出版社 東京 : 日経ナショナルジオグラフィック
出版年 2023年4月
請求番号 290/219
Kompass書誌情報

原著のタイトルは「Atlas of the invisible」ということで、『「見えざるもの」のアトラス(地図帳)』と表現できるだろうか。本書は,テキストや数字だけでは伝わらない人間社会を中心とする様々な現象について、ダイナミックな地図表現を駆使して詳らかにしようと挑戦した点が興味深く、ここで紹介する。

著者のジェームズ・チェシャー氏は、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの教授で地理情報科学・地図学を専門とし、英国を始め世界の様々な空間解析に関わる研究に携わっている。オリバー・ウベルティ氏はナショナルジオグラフィック誌の元・シニアデザインエディターを務めた地図可視化のスペシャリストである。両者はこれまで10年以上にわたり共同でアトラスや数多くの地図作品を世に送り出している。本書は、人類の過去の活動・人間の本質・現在の社会経済的状況、未来に直面すると予測される地球規模の課題について、データを徹底的に紐解いた上で、60以上に及ぶテーマを様々な種類の地図やグラフでパターン化している点が特徴である。

アトラスと聞くと、地形や土地の状況を表現した地形図を集めた地図帳をイメージするかもしれないが、本書はそれにとどまらない。歩行者の軌跡や河川の流れを示す流線図、名前(姓)の世界的分布を文字の大きさによって表現する地図、さらには各国の幸福度を表情に見立てたアイコンを使った地図などの多彩なビジュアルな表現が、次々と私たち読者の視覚に飛び込んでくる。ただし紹介されている多くの事例は、単に表現として面白いだけでなく、人類が歩んできた負の側面(戦争や暴力、社会的格差など)にも敢えて着目し、その地理的不平等を考えさせる内容にもなっている。

本書の原書は、新型コロナウイルス感染症による世界的パンデミックを迎えた2021年に出版されたこともあり、パンデミックに関わる内容(過去の例として大阪市の1900年代初頭のペスト発生図が取り上げられている)にも多くのページを割いて解説している。本書を通じて、データ駆使した地図表現のもたらす新たな可能性や、その地理的想像力の一端に触れることで、これから世界が向かうべき方向に思いを馳せて頂きたい。

文学部 准教授 瀬戸 寿一

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