センスは知識からはじまる(水野 学著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2021.10.01

書名 「センスは知識からはじまる」
著者 水野 学
出版者 朝日新聞出版
出版年 2014年4月
請求番号 675.3/61
Kompass書誌情報

「センス」という言葉になぜかいつも心が惹かれる。技術や資格などでは決して表現できない豊かな味わいが感じられ、「ずっしりと重みのある人間性」が詰まった言葉だと思う。ビジネス界においても社会生活においても、技術や資格よりも「センス」が物を言うようになった時代。しかし、「センスとは何か」という一見単純な質問に、果たしてどう答えればいいのだろうか。

「くまモン」のデザインを手がけたことで知られるグッドデザインカンパニー代表、クリエイティブディレクターの水野学さんによるこの本は、見事に「センス」を解き明かしている。「センスの良さとは、数値化できない事象のよしあしを判断し、最適化する能力である」という。それは生まれつき備わっているものでも天から降ってくるひらめきでもなく、「知識に基づく予測」から生まれる。「知識というのは紙のようなもので、センスとは絵のようなもの。紙が大きければ大きいほど、そこに書かれる絵は自由でおおらかなものになる」と語る水野さん。センスは「感覚」ではなく、「知識の集積」だからこそ、誰でも研鑽によって手に入れられるという。

なぜ大学で学ぶのか、大学では何を学ぶのかについて分からないまま学生生活を送っているなら、ぜひこの本を手に取ってほしい。技術の習得や資格の獲得なら大学でなくても十分に叶う。しかし、大人として生きていく上での「センス」を身に付け、磨いていくなら、大学はもってこいの場である。大学で学ぶ知識それ自体は、とかく何らかの作業に直接役立つわけではない。だが、一筋縄ではいかないこの世界の様々な出来事に直面するときに、それを受け止めて最適化していくための「大きく分厚い素地」を練り上げたいなら、大学で学ぶすべての知識がその栄養源となるだろう。このキャンパスで学んでいる以上、ぜひ「センスのいい大人」を目指そう。

文学部 教授 李 妍焱

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