アメリカの夢アウトローの荒野 : ジェシー・ジェイムズの西部(岡田 泰男著)
Date:2018.08.01
書名 「アメリカの夢アウトローの荒野 : ジェシー・ジェイムズの西部」
著者 岡田 泰男
出版者 平凡社
出版年 1988年6月
請求番号 253/56
Kompass 書誌情報
本書の主人公であるジェシー・ジェイムズ(1847-1882)は,日本ではあまり知られていないが,アメリカで何度も映画化されたことが示すように,歴史上もっとも有名なアメリカン・アウトロー(無法者)のひとりである。ミズーリ出身の彼は1866年から16年間にわたって,銀行強盗,列車強盗,殺人などを繰り返した悪党である。ところが,彼の存命中から世間は彼を支持し,やがてジェシー・ジェイムズは人気者となり,さらには「英雄」に祭り上げられてゆく。札付きの悪党がなぜ人気者ひいては英雄になったのか,これが本書のテーマである。
ジェシー・ジェイムズは,いわば「義賊」であった。彼のポリシーは元南軍兵士や「労働者や御婦人からではなく,シルクハットの紳士たちから」のみ金品を奪うことだった。これが当時の,わけてもミズーリ近辺の人々の溜飲を大いに下げた。南北戦争後の経済成長の過程で,西部の農民たちは,高い運賃をとる鉄道会社,高い利息をとる銀行,錯綜した法秩序,などに大きな不満をもっていたのである。また,ジェシー・ジェイムズが故あって南軍ゲリラとして活動したことも地元民から支持を受ける根拠となった。そもそも,白昼強盗といった荒っぽい手口を重ね,ピンカートン探偵社などの執拗な追跡を受けたにもかかわらず,16年間捕まらなかった(最期は裏切者に暗殺された),ということ自体がジェシー・ジェイムズの人気者・英雄ぶりを雄弁に物語っている。
英雄・義賊としてのジェシー・ジェイムズ象は,同時代人および後世の人々によって半ばつくりあげられた点も多く,「歴史的事実」となると彼は単なるゲリラくずれの悪党という位置付けに後退してしまうかもしれない。ただ,単なる悪党にほどこされた様々な脚色が,当時のアメリカ西部──ジェシー・ジェイムズを取り巻く世界──を理解するうえで重要なキーとなることをわれわれは忘れるべきでない。加えてジェシー・ジェイムズは土地と時代を超え,より普遍的なアメリカン・ヒーローに昇華していった。「神話や伝説は,単に真実をゆがめる作り話なのではなく,異なる形の現実と真相を示している」のであって「人びとの夢がつくりだした肖像こそ」が,ジェシー・ジェイムズの「真の姿なのである」。2007年にもブラッド・ピット主演で映画がつくられたが,アメリカの人々の夢が彫琢するジェシー・ジェイムズ象は,今後,どのようないでたちで姿を現すのであろうか。「ジェシー・ジェイムズを捕まえる」ために本書を書かれた岡田泰男先生にもっと話を聞きたかったが,先生はちょうど4年前に鬼籍に入られ,ジェシー・ジェイムズはますます遠くにいってしまった。
経営学部 教授 豊田 太郎