禅(鈴木 大拙著・工藤 澄子訳)
Date:2016.06.01
書名 「禅」
著者 鈴木 大拙
訳者 工藤 澄子
出版者 筑摩書房
出版年 1965年
請求記号 H190/440
Kompass 書誌情報
『禅』という極めてシンプルなタイトルを持つ本書は、鈴木大拙が書いた禅の思想的特徴に関する小論をまとめたものである。各章のタイトルは以下の通りとなっている。
第1章「禅」
第2章「悟り」
第3章「禅の意味」
第4章「禅と仏教一般との関係」
第5章「禅指導の実際的方法」
第6章「実存主義・実用主義と禅」
第7章「愛と力」
これだけを見ても、本書が、禅の中核となる思想に真正面から取り組んだものであることが分かる。
もちろん、禅思想の入門書は数多い。しかしその中にあって本書を勧める理由は、本書が、執筆当時はすべて英語で書かれ、異なる言語文化にある人々に向けて発信されたものであったという特徴を持つことによる。
哲学や思想は、表現しにくいゆえに「言外のニュアンス」に頼りがちになる。それは言語や文化を共有した人々に対しては、ある程度効果的である。しかし、異文化異言語の世界では、それは通用しない。本書は、そのような「暗黙の理解」という逃げ道のない環境にあって、いかにすれば禅思想を理解してもらえるか、その模索の上に出来上がったものといえる。
訳者は工藤澄子氏。鈴木大拙は、自分がまだ元気であったにもかかわらず、本書の翻訳を彼女に一任する。自分で訳すと、多くを書き改めてしまい、執筆当時の意図を改変することになってしまうため、あえて当初の形のまま翻訳を依頼したのだという。
世界の人々が、1950年代の禅ブームにあって理解した禅は、歴史と伝統にとらわれることのない純粋精神の発揚であった。本書に綴られているのは、その人々を禅思想に誘った言葉たちである。
このような成立背景を持つ本書は、それゆえ、禅を学びたい者には懇切丁寧な入門書として、禅を語ろうとする者には、「解らせるための言葉」の用い方を示す指導書として、私たちに多くの示唆を与えてくれるものといえるであろう。
仏教学部 教授 石井 清純