フィリップ・コトラーのマーケティング、中国の自動車開発の強みと日本の自動車産業の再興

2026年5月26日の「現代マネジメントⅠ」では、経営支援NPOクラブの杉田一志氏と長谷川聡氏にご講演いただきました。経営支援NPOクラブは、企業でキャリアを積まれた方々を中小企業などに派遣し、経営支援や指導を行っている団体です。

【ご講演前の記念撮影(左:杉田氏、右:長谷川氏)】

■「フィリップ・コトラーのマーケティング」 杉田一志氏

コトラー教授のマーケティング理論の現代的意義について詳しい解説がありました。

「近代マーケティングの父」と呼ばれるコトラー教授は、経済学的な人間観に疑問を抱き、「人々はどのように行動するのか」という関心からマーケティング研究に取り組みました。 

新常態(ニューノーマル)の時代には、「お値打ち感」のある商品やラグジュアリーな商品が受け入れられる一方で、シンプルさも求められるようになっています。また、コトラー教授の代表的な理論であるSTP分析や、マーケティング概念であるマーケティング1.0(1900年代-1960年代)からマーケティング5.0(現在)までの変遷についても説明がありました。

「意識の高い資本主義」(Conscious Capitalism)とは何かについて、米大手オーガニック食品会社「ホールフーズ」共同設立者であるジョン・マッキー氏と大学教授を務め、多くの著作のあるラジェンドラ・シソディア氏の提言を踏まえながら解説されました。

杉田氏は、「就職活動では企業を売上や利益といった数字だけで評価するのではなく、コトラー教授が指摘する新しい資本主義の観点から企業を捉えることも重要である」と学生たちに提言されました。

【ご講演中の杉田氏】

■「中国の自動車開発の強みと日本の自動車産業の再興」 長谷川聡氏

長谷川氏は1983年に日産自動車へ入社されました。フーガやスカイラインのCVE(Chief Vehicle Engineer)を務めたほか、関連会社である日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社ではスポーツカーのCVEも担当されるなど、自動車開発一筋のエンジニアとして活躍されてきました。

長谷川氏は、以下のテーマに沿って、世界の自動車業界の動向、中国EV(電気自動車)産業の台頭、そして日本の自動車産業が進むべき方向について体系的に解説されました。

1. 自己紹介と議題の選定理由

2.世界最大の中国EV市場

3.中国EV市場を支える戦略

4.緻密な中国の国家戦略

5.中国EVのコスト競争力

6.中国自動車開発の弱み

7.日本の自動車産業の勝ち筋

8.本日のまとめと皆さんへのメッセージ

【長谷川氏のご講演】

学生からは、中国では電化製品のライフサイクルのように電気自動車が高速で開発・生産されていることや、完成度が十分でない段階でも市場投入されるケースがあることについて、その是非や安全性に関する質問が寄せられました。また、日本政府による自動車産業支援のあり方についても活発な質疑が行われました。

【310名が出席】

以下、学生からの感想の一部を紹介します。

「ご講義で中国EVの驚異的な開発スピードについてと過剰生産のリスクを学び、コトラーが指摘する資本主義の欠点、特に短期的な利益を追う姿勢がまさに今の市場で起きていると納得しました。私は普段から自動車業界の動向を追っており、ホンダが北米のEV計画見直しで初の赤字を出した決断や、トヨタがハイブリッドを軸に全方位で戦う戦略に強く関心を持っています。ご講義を通じ、持続可能性を見据えた日本メーカーの一見遠回りな判断こそが、実はコトラーの説く思慮深い資本主義のあり方に近いと気づきました。単なる技術や価格の競争ではなく、世界の覇権争いを読み解く長期的なビジネスの視点を今後も養いたいです。」

「ビジネスで成功するためには、企業が存続するために必要な3P(利益・人・地球)と、商品やサービスを販売するために必要な4P(製品・価格・流通・販促)を合わせた7Pが非常に重要であり、現在のマーケティングには、3Pに関連する社会的責任を果たすことが求められていることが分かった。中国の自動車開発に関して興味深いと思ったのは、国内需要の脆弱性である。消費者からの信頼低下により国内市場の成長が不安定であるという点である。これは中国の生産コストが安い理由にも大きく関わっていた。製品の完成度よりも市場に出すことを重視しているためである。日本との自動車業界の競争に勝ちたいのならば、まず製品の完成度を見直すべきだと感じた。」

「ご講義から、中国の自動車産業が「中国流高速開発サイクル」やIT技術の融合により、驚異的なスピードと低コストでEV市場を牽引している現状を学んだ。製品の完成度よりもまず市場に出し、ソフトウェアOTA(Over The Air)で後から改善していくテスラ型の手法は、従来の日本の開発思想とは大きく異なる。 一方で、過剰生産による価格競争や、米国のコネクティッドカー規制といった弱み・逆風も抱えている点は興味深い。日本がこれに対抗するには、全固体電池などの技術革新やDX、さらにアメリカからの逆風を逆手に取る戦略が不可欠であると感じた。また、最後に語られたように希望を示し、周囲を引っ張るリーダーシップの重要性が心に残った。」

授業の振り返りで寄せられた多数の質問にも丁寧にご回答いただきました。ありがとうございました。

(M.M.)