【姉歯ゼミ報告】先輩たちが培った信頼関係に支えられた夏合宿
経済学部姉歯ゼミの西野智哉さんによる夏合宿報告です。
姉歯ゼミの基本的な活動は、まずは本を一冊決めてから分担してレジュメ作成を行い、各章ごとにレジュメの発表と意見交換を行うところから始まります。この過程でうまれた疑問や発見をもとに問題意識を深め、研究を行います。この過程を凝縮して3日間泊まり込みで学び合う春合宿を経て、夏には合宿を行います。今回はこの2年間の夏合宿の様子をお伝えしたいと思います。
1、2022年:新潟県柏崎市で行った3泊4日の夏合宿
姉歯ゼミの合宿の特徴は、合宿に先立ち、夏休み期間、週に2日は集まって勉強会を繰り返し、現地で何を調査するのか、獲得目標をどこに設定するのかを確認してから合宿に向かうことです。
今回のゼミ合宿のテーマは、山間地集落における地域機能の維持:隣接地域における内発的発展と外発的発展の事例の比較検証です。産業などの外部からの誘致で地域発展を目指す外発的発展の事例として柏崎原発を有する柏崎市に、既存の資源を活かして自然や環境、従来の「住み方」で地域機能を維持していく内発的発展の事例を同じ柏崎市内でも山間地にある小さな集落、門出に求めて調査を行いました。
合宿は、まず柏崎刈羽原発の施設見学と「原発を再稼働させない柏崎刈羽の会」との意見交換会から始まりました。ちょうど刈羽原発の再稼働に向けた動きが活発化する一方で入構記録の改ざん問題や書類の紛失事件などが発生し、問題となっている時期の視察でした。考えている以上にかかる施設の保守費用の問題やテロの危険性から決して明かされない海と陸両方のセキュリティーに関わる公的支出の大きさなど、税金を払うものの一人としてももっと関心を持っていかねばならない問題だと認識するきっかけになりました。何より、補助金で建設された大きな施設と柏崎市の市内に広がるシャッターが閉まった商店街や人の少なさ、活気のなさの対照的な風景が心をとらえました。
続いて、私たちが投宿している人口278人の小さな集落門出では、イベントや外部からの企業などの誘致に頼らずに今ある資源を活かした「最後まで共生していける集落」を目指す村おこしのグループ代表で和紙職人でもある小林康生さんの活動に同行させていただきました。
門出集落は姉歯ゼミが長い間交流を続けてきた場所です。子どもも大人も楽しめる雄大な自然の中の手作りブランコ、もともと集落にあった茅葺の家を移築して建てられた宿泊施設では素朴で美味しい地元食材を活かした料理が提供されています。運営は全て集落の住民自身の手で行われています。ここに泊まりながら、籾摺りや紙漉き、餅つきといった数多くの体験を通して、そして何より、一緒に台所で食事作りの手伝いをしながら、食器を洗いながら聞いた集落の女性の皆さんのここでの生活、どんな課題があってみんなでどう解決しようとしてきたのかといった話が、1日の終わりに行われる「学びの確認作業」を通じて私たちの問題意識を育ててくれました。
合宿後には、柏崎刈羽原発訪問の際にさせていただいた質問の回答と、原発を再稼働させない柏崎刈羽の会の方々から伺ったお話を照らし合わせて見えてきた問題や、地域の方々との触れ合いや散策で得た発見などを発表し合いました。そこから各々が関心を持った問題が現在進められている論文作成へと繋がっています。
元農業大学校の先生で、姉歯先生の長きにわたるご友人、農機会社などでも主任研究員として活躍されている斎藤祐幸先生にいらしていただき、集落の皆さんにも参加していただき公開勉強会も開催しました。若い農家の後継者の皆さんともお会いできて素晴らしい時間を過ごすことができました。
2、2023年:新潟県佐渡市(佐渡島)の4泊5日の夏合宿
先輩たちが佐渡で活動していた時にもご支援いただいていた駒澤大学同窓会新潟県支部元会長で現在佐渡の剛安寺のご住職でいらっしゃる藤木篤典先生、駒澤大学の卒業生で佐渡奉行所に近い名刹、総源寺のご住職の藤木大豊先生に大変お世話になりました。藤木大豊先生には相川町の地域おこしについて地域おこしの会のリーダーの方もご紹介いただき、ハッと気付かされる大切なお話の数々をお伺いしました。特に、佐渡の中でも都会の相川町で取り組まれている地域再生は、むしろ都会ならではの「無関心層」の存在がマイナスにはならず、むしろ新しいことを試行して行く突破口にもなる・・・そのお話は後日伺う山間集落の羽茂大崎とは正反対の事例で、ゼミの現在の研究に新たな切り口を提供していただきました。
藤木大豊先生は曹洞宗の人権啓発活動に長く携わっておられ、総源寺には朝鮮人労働者を含めたすべての鉱山労働者のための供養塔が建立されています。歴史を記録し、記憶し続けることは地域にどんな可能性があるのかを考えるにあたってとても大切なことだと学ばせていただきました。
佐渡合宿では夕食後も見るべきこと、やらなければならないことがたくさん待っています。ゼミ長のたっての希望でラピュタの映画に出てくるような風景と評判のライトアップされた北沢浮遊選鉱場跡を訪れました。こんなに美しい幻想的な風景なのに、戦時下の佐渡金山で働かされていた朝鮮半島出身の人々を含む金山労働者の人たちのことが重なり、物悲しく見えてきました。
二日目はコロナによるパンデミック発生の前まで姉歯ゼミが3年間に渡り交流を続けた羽茂大崎を訪れました。まずは先輩方が活動の一環で作成した観光地図や、地域の各所に設置された案内板を見て回りましたが、設置から数年経った今でもとても綺麗な状態に整備されており、地域の方々が大事にしたくなるようなものを先輩たちが地域の方々と手を取り合って作り上げたのだということがよく伝わってきました。その後は「大崎そばの会」に参加し、10割そばや手作りの郷土料理に囲まれながら会話を楽しみました。
この集落は人口188人、約80世帯が寄り添って暮らす山間集落です。高級柿である「マルハおけさ柿」の産地でもあり、つなぎを入れずにそばが作れる優良な蕎麦粉の産地でもあります。加えて、私たちがいただいたような手作り料理にこの地域に伝わる人形浄瑠璃をはじめとする伝統芸能を楽しみながら手打ちのそばをいただく「そばの会」が毎年開催され、全国からたくさんの人たちがやってくる場所でもあります。相川町とはことなり、先祖代々のうちを守ってきた住民の皆さんの結束は強く、外部資源に依存しない内発的な地域機能の維持を目指す集落です。
羽茂大崎集落と姉歯ゼミとで作成した大看板。目標としたのは観光だけではなく、日常的な散歩ルートの中に村の自然と歴史を発見できる楽しみと思索を取り入れることでした。
昨年体を壊されて厨房に入れなくなった懐かしい方も私たちのためにいらしてくださいました。(中央椅子に座られた方)
集落のことは集落の住民で考える・・・この結束の強靭さと息の長い「そばの会」と伝統行事の継続、その中でのお互いに無理をしないさせない取り組みに、「都会」での地域機能の維持とは異なる課題への接近方法を学ばせていただきました。冬の「そばの会」の時にはまたお手伝いに伺えれば、そんなことを考えながら集落を後にしました。
三日目は佐渡の最北端に位置する内海府小・中学校を訪れました。内海府小・中学校の給食は自校方式、かんぱちやマグロ、鯛などが出る驚きの給食やが提供されています。
「食べる」だけにとどまらず、子どもたちは地域の人々との連携で行う定置網体験を経験できるなど、内海府小・中学校ならではの食育の取り組みや、地域の人々との交流のあり方などを勉強させていただきました。
生産者の皆さんの顔と名前、メッセージが張り出される廊下から中を覗くことのできる調理室は子どもたちと普段ならあまり感じることができない「調理過程」の美味しそうな匂いや調理員さんとの触れ合いを作り出していました、その日の献立は、地元の野菜と、商品からははじかれた魚や海藻などを発酵させ肥料にして育てた「海のお米」を使ったカレーライスをいただきました。
「海のお米」のカレーライス、トキの可愛い絵が描かれている「佐渡牛乳」
四日目は佐渡の代名詞ともいえる佐渡金山を訪れ、当時の過酷な労働環境や、当時使われた道具の解説、小判の製造についてなど、佐渡金山に関して様々なことを知ることができました。一方で、佐渡金山で戦時中働かされ命を落とした朝鮮半島出身の労働者のことはどこにも書かれておらず、今もそのことが重く心にのしかかってくるような気持ちでいます。
驚きと悲しさを半々に抱いたまま暗い金山から出て休憩したカフェから見た雄大な自然もまた佐渡の魅力です。矢島のたらい船から見た澄んだ海、昔からの居住地をそのまま保存し、住みながら観光客にその歴史を伝える努力を続ける宿根木を訪れたり、今も手作りでバターを製造している佐渡乳業にも足を運びました。人々と自然、そして歴史が創り上げてきたこの佐渡の資源を、一過性の観光やイベントではなく、この島で生活し続ける人々の生活に活かしてこその地域再生だということを実感することができました。夜には宿泊先の「おーやり館」の管理人である池田さんに連れられて港で釣りを楽しむなど、佐渡の様々な魅力に触れる一日になりました。
昔の風景がそのまま保存されている宿根木
最終日は吉井本郷の剛安寺をお訪ねして、美しい境内と素晴らしい本堂を拝見しながら藤木篤典先生からこの地域の心の拠り所としてのお寺のご様子、佐渡全体にまつわる貴重なお話をお伺いしました。
帰途、佐渡のみで水揚げされた活きの良い天然・無添加の海産物を取り扱う丸中商店を訪ねました。コロナで観光客が途絶えた期間、新商品の開発にその時間を使ってスパイスの効いたサザエカレーやイカ飯を新たな商品として送り出しました。余剰となって廃棄されたかもしれない貴重な島の資源を、加工品という形で島外の消費者に届けることで、観光客を受け入れられなかった佐渡の住民の経済も雇用も支えていた丸中商店の事例を学無ことができました。その試行錯誤の様子を笑顔で語る本間社長、そしてお忙しい中をいつも優しく私たち姉歯ゼミを応援してくださる藤木先生のお話を伺って、とても心に残る一日になりました。
姉歯ゼミではこのほかに社会連携事業として受託研究「五泉食育調査」にも取り組んでいます。場所の違いやその時の重点的な勉強の方向が異なっていても全てがつながっていくことが不思議です。今、論文を書きながら、本や論文の「文字」が経験したこと、伺った話、そして風景とお世話になった藤木先生をはじめ柏崎や佐渡でお会いした皆さんの顔と結びついてきます。溢れる感謝の気持ちは学びの成果とともにお伝えする、そのことを支えに今小さなゼミは日夜論文にまとめるために活動中です。