ラボ駅伝

駒澤大学で行われている研究を、リレー形式で紹介する連載メディアです。創造的でユニークな研究を通して見える「駒大の魅力」をお伝えします。

学びのタスキをつなぐ 駒澤大学 ラボ駅伝

第19区 大山 礼子教授

政治制度で社会を変える

選挙では何も変わらない 人の意識を変えるなんて無理 そう思い込んでいませんか
 まずは制度を変えてみましょう!

「政治や社会を良くしよう」と考えるとき、政策や人々の意識を変えることばかりが頭に浮かんでいないだろうか。しかし、法律や予算など、日本の社会の根幹はすべて国会で決められる。大山礼子先生は、議会や選挙の制度を変えることで、国や社会も改革できると私たちに問い続けている。改めて、議会制度や選挙制度について考えてみよう。

人の意識を変えるより、制度で社会を変える人の意識を変えるより、
制度で社会を変える

大学を出て最初に勤めたのが国会図書館です。国会議員から頼まれて新聞記事や関連図書などを探したり、外国の制度を調べたりすることが仕事で、地方自治と議会制度が私の担当でした。続けていくうち知識も増え、その後は大学で教えるようになって現在にいたります。

大山 礼子教授

それなりに長く日本と諸外国の議会制度や選挙制度を研究してきたわけですが、昨今の政治状況を見たとき、日本の議会制度には変えるべきところがまだまだあると感じています。そのために自分の知識を役立てることができるなら何とかしたいと、本を書いて「国会を変えたらこうなりますよ」と提言したり、講演で「ここをこう変えればこうなる」と話したりはしていますが、なかなか変わりません。
こういう話をすると、「社会全体の意識が変わらないとダメ」という結論になりがちですが、「意識を変えるより、制度を変えましょう。制度が変われば人の意識なんてすぐに変わりますよ」と言い続けています。

たとえば、選挙制度。小選挙区制と比例代表制という制度の違いだけで、その結果はガラっと変わりますよね。議会に多様性を求めるなら、高額な供託金を廃止して立候補しやすくする方法もあります。ふだんはあまり意識していないかもしれませんが、本当はそのあたりを皆さんにもっと考えていただきたいんです。選挙制度は民主主義の"根っこ"なんですから。

もちろん、国民すべてが選挙制度に関心をもつわけはないし、その必要もありません。政治に関わっていたり、関心をもっている一部の人だけでもいいんです。マスコミの政治部の記者などには、とくに関心をもって、しっかり記事にしてもらいたいですね。

1つの制度の改正は思わぬ動きを引き起こす1つの制度の改正は
思わぬ動きを引き起こす

選挙制度でいえば、2018年には「政治分野における男女共同参画推進法」ができました。法的な拘束力はありませんが、政党に女性候補者を増やす努力義務が課せられ、それに応じて立憲民主党は候補者の女性比率を40%にしました。こうした動きに票が集まれば、ほかの党も女性候補者を増やさざるを得なくなるでしょう。
ちなみに、この制度は、"男女雇用均等法の母"である赤松良子さんが始めた「クオータ制*を推進する会」による熱心な働きかけの成果です。少しでもお役に立てばと私も顧問をしていますが、こうした地道な活動も社会を変える力になります。

*クオータ制:政治や企業の意思決定における男女平等を実現するために、議員や閣僚、役職者などの一定数を女性に割り当てる制度

議会に女性が増えれば、若い人やLGBTの議員も増えるでしょう。東京都議会は例外的に女性議員が多く、2019年6月11日現在で29%と3割近くになります。ある集団内で少数派が少数派でなくなる分岐点を「クリティカル・マス」といい、それがちょうど3割あたりですから、都議会もクリティカル・マスに近づいているわけです。少数派が変わると議会の多様化も進めやすくなっていきます。

都道府県議会議員に占める女性議員の割合
都道府県議会議員に占める女性議員の割合
総務省「地方公共団体の議会の議員及び長の所属党派別人員調」(平成30年12月31日現在)より

多様化というと、2019年7月の参院選でれいわ新撰組が比例区の「特定枠」を使い、重度障がい者2人を国会に送り込んだことを思い浮かべる方がいるかもしれませんね。これは2018年の選挙制度改正で登場したもので、改正当時はメディアにもほとんど注目されませんでしたが、理屈の通らない改正でした。というのも、参議院選の比例代表制は2000年の改正で、党が決める「拘束名簿順」ではなく、個人の得票順に当選を決める「非拘束名簿」制となり、国民が候補者を選べるようになっていました。ところが2018年の改正で、選挙活動を制限する代わりに党の決めた優先順位で当選できる「特定枠」を設けた。しかも、特定枠には「候補者の一部」というだけで人数の規定がなかった。つまり、党の一存で非拘束名簿を再び拘束名簿に変えてしまえる仕組みとなってしまったんですね。こうして、自民党が定数見直しで合区となった2つの選挙区で立候補できなくなった現職議員2人を「特定枠」で擁立し当選させた一方、れいわ新撰組は、制度の裏をかいて重度障がい者を当選させたわけで、制度も使いようだということがおわかりいただけるでしょう。

『政治を再建する、いくつかの方法-国の統治のあるべき姿とは』
2018年11月に刊行された『政治を再建する、いくつかの方法-国の統治のあるべき姿とは』では、諸外国とも比較しながら現在の制度の問題点を分析するとともに、真に機能する制度とは何かや、国や地方の進むべき道を考察

地方行政に文句をいうより議会参加で制度を変える地方行政に文句をいうより
議会参加で制度を変える

国会より生活に身近な存在が地方議会です。保育所から介護まで、生活に関わるさまざまな予算は議会で決めるわけですから、本来、地方議会はもっとも身近な政治の場であり、そこで変えられることもたくさんあります。しかし、住民の目がなかなか議会に向かないんですね。
たとえば「保育園を増やしてほしい」という要望は、真っ先に役所に行くわけです。市政が"お客さま窓口"のような存在だと思われているのが現状です。
まちづくりのために、地方へUターンやIターンしたり起業をしたりする若い人たちも、政治には興味がない。そうした人たちに「議員に立候補しないんですか?」と聞いても、議会や政治は自分たちとは関係ないと思っているようです。議員のなり手不足に悩む地方議会も少なくありません。

でも市町村議会に住民が参加していくことで、社会は変わります。最近の例では、長野県の飯綱町で、住民の代表と町議会議員が特定の課題について話しあって政策を協議する「議会政策サポーター制度」をつくりました。議員からの要請と公募によって十数人の町民が参加し、月に1回ほど会議を開いて政策提言書をまとめたところ、時間外保育の一部無償化などが実現したほか、参加者から議員に立候補する人まで出てきたといいます。
勉強会や議会報告のようなかたちで住民の声を聞く試みはありますが、ただ話しあうだけでは人は集まりません。しかし、議論の結果が政策に反映されるとわかれば、興味をもつ人も増えるでしょう。地域のリーダーたちにうまく働きかけ、議会に目を向けてもらう工夫も必要です。

大山教授
大山教授は、地方自治の課題や制度を調査・審議・検討する「地方制度調査会」の副会長を務めている。2012年の改正では、これまで首長にしか議会を開く権利がなかったが、議長に議会の招集請求権をあたえ、首長が応じない場合は議長が議会を招集できるようになった。こうした地道な制度改革も大切だと語る。

議会は分断を回避する装置 感情に流されず課題を乗り越える社会に議会は分断を回避する装置
感情に流されず課題を乗り越える社会に

日本人はいつのまにか、「選挙に行っても変わらない」と思い込まされてしまったのではないでしょうか。学生たち、なかでも男子学生には「世の中は現状維持。これ以上、悪くならなければいい」と思っている人がとても多い。日本の過労死や長時間労働の現状を知っても、「日本はこれでもマシなんですよね」といって外の世界を知ろうともしない。
たしかに、人生経験が少ないから、かえって世の中が変わるとは思えないし、変わるのが怖いのかもしれません。だけど、世の中は変えられる。そして、変わるときは簡単に変わります。ただし、みんなが変わらないと思っていたら変わりません。「変わらない」っていう思い込みから、まずは解放されることではないでしょうか。

私自身も、あと少し何かを変えるお手伝いができればと思っています。たとえば、近年は県議会で無投票が増えていて、議員の半分以上が無投票当選という県さえある。しかし、1人区が無投票になったらもはや民主主義ではありません。議員さんたちも、さすがに1人区の無投票当選はマズイと感じているでしょうから、選挙制度改革が実現できるかもしれません。

議会は「分断を回避する装置」です。国民投票で物事を決めよう、議員はいらない、という人もいますが、直接投票は国民の世論を大きく分断します。イギリスのEU離脱(ブレグジット)もトランプ政権も、国民にYESかNOかを迫って国を分断したのではないでしょうか。

本来、議会とは、意見は違っても、お互い仲間意識をもって妥協しつつ物事を決めていく場所だったはずです。異物を排除し仲間内だけでやっていた取り決め方を改めて、多様な人がリスペクトしあって物事を決める場所にしていけるかどうか。それが、これからの社会にとって大変重要になります。感情的にならず、制度や仕組みを使っていかに課題を乗り越えていくか、私たちは問われているのです。

Profile

大山礼子教授
一橋大学大学院法学研究科修士課程修了。博士(法学)。国立国会図書館勤務、聖学院大助教授、同教授を経て、2003年より駒澤大学法学部教授。専門は政治制度論。内閣の諮問機関「地方制度調査会」委員を第29次より歴任。おもな著書に『国会学入門』(三省堂)、『日本の国会』(岩波新書)、『国会を考える』(編著・三省堂)、『政治を再建する、いくつかの方法』(日本経済新聞社)など。

次回は 第20区 瀧本誠 准教授

駒澤大学ラボ駅伝とは・・・
「ラボ」はラボラトリー(laboratory)の略で、研究室という意味を持ちます。駒澤大学で行われている研究を駅伝競走になぞらえ、リレー形式で紹介する連載メディアです。創造的でユニークな研究を通して見える「駒大の魅力」をお伝えします。

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