研究レポート

DATE:2020.12.21研究レポート

多角的な視点で学びを得ながらその次の関心や研究テーマを探し文学の新たな知見を築いていく。

文学部 国文学科 倉田 容子 准教授

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他者のことを謙虚に学び、想像力を鍛えたら、より人間性が豊かになります。
授業や学生の卒業論文から刺激を受けつつ研究対象を見つけ、日本近代文学の研究を続ける倉田准教授。その多角的でユニークな視点に迫ってみよう。

最初の研究テーマ

私は、明治時代から現代までの小説を研究対象とし、小説の中で描かれている人々が置かれた歴史的、政治的な文脈をすくい上げ、人間の生を形作る諸条件について考察しています。

最初の研究対象は〝日本近代文学における女性の老い〞で、大学院に入る頃には、この研究テーマを決めていました。その理由の一つは、大学でジェンダー研究やフェミニズム批評の授業に興味を持ったことです。私が読んできた小説を振り返ってみた時、「文学作品に登場する人物は若い男性が多くて、女性の存在感が薄い」と気づきました。

もう一つの理由は、実は私はおばあちゃん子で、高校時代に祖母が他界してからも、祖母の生き方について考えることがよくありました。その中で「なぜ小説の中に、祖母のような人物が描かれていないのだろう」と、疑問を持ちました。たまに高齢の女性が登場しても、その登場の仕方は男性との関わりに限定されており、一人の人間として存在していない、と感じたからです。

著書として完結

20201221kurata02最初の研究テーマをまとめた著書
『語る老女 語られる老女-日本近代文学にみる女の老い』(學藝書林)

遅かれ早かれ、誰もが老いていくわけですが、これまで読んできた文学作品の中に「自分の将来像を重ねられる女性の登場人物がいない」、「一人の人間として高齢女性を描いた作品がない」という違和感をテーマに落とし込みました。

研究していく中で、年齢差別(エイジズム)に関する知見が英語圏で積み重ねられていることを知りました。男性の老いが、多くの場合、定年退職によって区切られているのに対して、女性の場合は性別役割分業により、家庭の中に囲い込まれている場合が多く、男性と同様に考えることはできません。「では、どうしたら〝女性の老い〞を紐解いていけるか」と試行錯誤し、家族制度や消費文化など、様々な切り口からアプローチを重ねました。

2008年に博士号を取得し、その2年後、この研究を著書にまとめ、最初の研究テーマを完結させました。

研究対象を探して

現在の研究テーマは〝日本近代文学における女性と政治〞です。明治期の自由民権運動の頃、「政治小説」というジャンルが生まれ、盛んになりましたが、特にその頃活躍した書き手・宮崎夢柳に関心を持ち、このテーマを研究し始めました。

なぜ夢柳に興味を持ったかというと、私は駒澤大学で「文学史Ⅱ(明治時代以降)」を担当していますが、授業の準備として政治小説をきちんと読み直したことがきっかけの一つです。政治小説の中でも特に女テロリストが多く登場する夢柳の作品に惹かれました。

夢柳への関心が、もともと持っていた「なぜ政治の世界は、私にとってこんなによそよそしいのだろう」、「政治に関心を持たなければと思っているのに、参入しづらいと感じる、この壁はなんだろう」というモヤモヤと結びつき、現在の研究テーマとなりました。

ここ数年、夢柳を中心とする政治小説、のちに明治社会主義に転じた民権運動出身の女性活動家・景山(福田)英子、と追いかけてきた流れの一環として、現在はプロレタリア文学に関心を寄せています。

例えば、平林たい子の作品では、妊娠した女性がよく出てくるのですが、プロレタリア文学の全盛期にその女性たちの言動は「女性のエゴが表れている」と批判されました。しかし、フェミニズム批評が登場すると同じ描写が肯定的に解釈されるようになり、一人の作家でも時代によって評価や位置づけが変化することが分かります。そういうところにも面白さを感じています。

卒論からの刺激

20201221kurata03「学ぶところが多い」という倉田ゼミの卒業論文集

前述したように、教えている内容が自身の研究テーマのきっかけになることもありますが、学生の研究や卒業論文から刺激を受け、学びを得ることも多いです。

文学部国文学科の学生は2年次からゼミで研究をすることもあり、修士レベルまで高められた卒業論文も少なくありません。私自身は、つい文学作品の物語構造や時代背景、文学史上の位置づけといったところに目が行きがちなのですが、学生たちは個々の作品の細やかな表現に目を凝らし、彼ら自身が感じ取ったものをきちんと研究に落とし込んでくるので、そこにも学ぶべき視点が大いにあると思っています。

そういう優れた素養を持つ学生に、「他者のことを謙虚に学び、その上で想像力を持って活躍してほしい」と伝えたいですね。研究も同様ですが、何事も勝手な想像を押しつけ、自分の狭い常識で判断してはいけないと思います。想像力を持ち、視野を広げたら、勉強も課外活動もさらに素晴らしいものが得られると思いますよ。

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文学部 国文学科 倉田 容子 准教授
東京都生まれ。日本女子大学卒業。お茶の水女子大学大学院博士後期課程修了、博士(人文科学)取得。杉野服飾大学専任講師を経て、2014年に駒澤大学着任。著書に『語る老女 語られる老女―日本近現代文学にみる女の老い』(學藝書林)がある。

※ 本インタビューは『Link Vol.10』(2020年5月発行)に掲載しています。掲載内容は発行当時のものです。

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