DATE:2019.11.25研究レポート
研究こぼれ話『リーズと貿易政策』
経済学部 吉田 真広 教授
- 経済学部 吉田 真広 教授
2018年4月から1年間、英国のリーズ大学でブレグジット(英国のEU離脱)問題を研究する機会を得ました。リーズはかつて羊毛産業で栄えたヨークシャーの中心都市であり、運河と鉄道における交通の要所でした。リーズ産の毛織物は国内だけでなく海外にも展開され、国の経済発展の礎となりました。
現在は商業都市とともに大学都市でもあります。33,000人以上を擁するリーズ大学には、貴族やブルジョアジーだけでなく繊維労働者の子供など多くの人への平等な学問機会の提供を設立理念とする記念紋章があります。その他、学生数26,000人のシティ大学、法律、建築、美術、音楽等、数千人規模の諸大学が点在しています。
ブレグジットの焦点の一つは貿易です。貿易問題が論じられる際、よく目にするのが「自由貿易は正義、保護貿易は悪」という思考停止的な論調です。自由貿易は普遍的に正当な政策ではありません。例えば、16世紀以前の英国は大陸ヨーロッパの毛織物生産の原料供給国であり製品輸入国でした。自国生産品が輸入品に変わったのは、それ以前に保護政策があったからです。また、産業革命を主導した綿布の機械生産のきっかけは、「風が織りなす布」と評されたインド産の綿布輸入からの保護政策でした。英国が優位性を獲得した後、「自由貿易帝国主義」として他国の発展を阻害した時期もありました。自由貿易と保護貿易の是非は、発展段階、経済構造や相互関係等を踏まえて論じるべきなのです。
※ 本コラムは『学園通信339号』(2019年10月発行)に掲載しています。掲載内容は発行当時のものです。