メディア制度の形成と変容を 社会や文化も含めた歴史的な文脈で読み解く
グローバル・メディア・スタディーズ学部 西岡 洋子 教授
インターネットをはじめ通信技術の急速な進展によって私たちのコミュニケーションのありかたが大きく変容している。では、その運用の仕組みやルールは、国際間でどのように定められ社会にどんな影響を与えてきたのだろう?
西岡先生は、メディア産業のそんな大きな流れを見つめている。
グローバルに広がるネットワーク だれが、どう管理するか?
みなさんは LINEで友人とおしゃべりし、YouTubeで動画を見、ネットで世界のニュースを見聞きするなど、インターネットが空気のように当たり前の存在になっていますね。でもグローバルに広がるネットワークを世界中の誰もが問題なく利用できるようにするために、どんなルールがあって、それを誰が管理しているかを意識したことはありますか?
私はこのようなインターネットや放送、通信といったメディア産業の変容を、「制度」という観点で分析しています。
制度というとちょっとわかりにくいかもしれませんが、法律で定められているルールのほかに慣習なども含まれます。たとえば名刺交換のやり方とか、バレンタインデーにはチョコをあげるとか、みんながお互いにそう思っていること、互いに共有されている予想やコンセンサス、決まり事なども制度の概念に入ります。
そういった約束事や慣習などが国内市場はもとより、グローバルに共有されていく過程について、ゲーム理論を使いながら分析をしています。
腕木通信からインターネットへ
メディアやコミュニケーションには高校生の頃から興味があり、大学の卒論はマスメディア以外のものもメディアとして活用する企業のイメージ戦略の分析でした。当時日本には、メディアやコミュニケーションを専門に学ぶ学部はなく、卒業後ペンシルベニア大学の大学院に留学しました。当時のアメリカでは、全米を高度情報通信ネットワークで結ぶという「情報スーパーハイウェイ構想」が打ち出されていて、日本とは比べものにならないほど、情報通信技術が急速に進展していました。
帰国して、通信会社の研究所で国内外の新しいビジネスに関する調査を行った後、大学に移りまとめたのが『国際電気通信市場における制度形成と変化―腕木通信からインターネット・ガバナンスまで―』という論文です。「腕木通信」というのは、大きな水車のような通信機で、回転する腕木の角度などでメッセージを送る機械式の手旗信号機です。これがナポレオン戦争時代にパリからヴェニスまで繋がり、この運用体制を引き継いで、 ITU(国際電気通信連合)が誕生することになります。 ITUがトップダウン型であるのに対し、アメリカ型のヒッピー文化が背景にあるインターネットは、参加がオープンで意思決定の仕組みもボトムアップといった違いがあります。こうした制度の変遷をたどったわけです。
ネット供給の動画サービスを日本・韓国・中国で比較研究中
現在は、通信と放送の融合の典型例ともいうべきOTT-V(Over The Top Video:インターネットで供給される動画サービス)が日本と韓国、中国でどのような発展をしているかの比較研究を行っています。
たとえば、日本では地上波中心の仕組みができ上がっていてネットでの番組提供についても、それは変わっていないのに対して、韓国は新しい発想のプレイヤーも積極的な動きを見せています。
物事の発達はその国の環境や文化によって違うし、もともとの出発点がどうだったかによっても異なります。プロジェクトは韓国や中国の研究者と共同で行い、現地調査もする予定。今年度中には調査を終えて、結果をまとめたいと思っています。
メディアは、世の中で重要な役割を果たしていて、社会の仕組みやコミュニケーションの方法を変えていく力を持っています。大きな文脈のなかで捉えることにより、将来像も見えてくるはずです。
- グローバル・メディア・スタディーズ学部 西岡 洋子 教授
- 東京女子大学文理学部卒業。1992年米国ペンシルベニア大学アネンバーク・コミュニケーション大学院で修士号、2004年慶應義塾大学政策・メディア研究科修了。政策・メディア博士。専門はグローバルなメディア制度の形成と変容、比較制度分析。
※ 本インタビューは『Link Vol.6』(2016年5月発行)に掲載しています。掲載内容は発行当時のものです。