ラボ駅伝

駒澤大学で行われている研究を、リレー形式で紹介する連載メディアです。創造的でユニークな研究を通して見える「駒大の魅力」をお伝えします。

学びのタスキをつなぐ 駒澤大学 ラボ駅伝

第6区 グローバル・メディア・スタディーズ学部 各務洋子 教授

グローバル社会を生き抜く戦略

個性を磨き、違いを認める。グローバル時代のサバイバル戦略です。

この10年、グローバルという言葉は日本で最頻出用語になりました。就職活動の現場でも、「グローバル人材」「グローバル企業」「グローバル戦略」と見かけない日はありません。日本企業の社長に外国人が就任し、日本の企業が外国の大企業を買収するといったニュースも増えていますね。
グローバルに活躍するには、英語を学び国際感覚を身につけさえすればよいのでしょうか。企業を経営学の視点で見つめ分析してきたグローバル・メディア・スタディーズ学部の各務洋子先生に、グローバル社会で生き抜くための戦略をうかがってみましょう。

グローバル化ってどういうこと?グローバル化ってどういうこと?

グローバル・メディア・スタディーズ学部 各務洋子 教授

私の専門は、経営学の中でもStrategic Management(戦略的経営)という分野に属します。グローバルという言葉は関係なさそうに見えますが、私の研究にとってグローバルはキーワードです。企業活動を研究する際、企業は様々な基本的資源(ヒト、モノ、カネ、情報)に関して、それぞれの条件に見合った最適なものを、国の内外を問わずに調達します。株式会社の起源と言われる1604年、東インド会社がスパイスを求めて大航海したことを取り上げるまでもなく、私たちの生活は国を越えた広域の分業を実現する交易によって成り立っています。当時と比較すれば、人口は桁違いに激増し、技術の進展においては第四次産業革命と言われるほどに世界の外部環境は激変しています。様々な<視点>、広い<視野>、そしておのおのの<視座>で、総合的に、また歴史の流れの中で把握することが求められます。特にこの10年、グローバルというキーワードが散見するようになりました。インターネットの誕生がグローバル化を促進させたとも言われますが、ITや交通手段の技術革新が重要な役割を演じています。

こうなると皆さん一人の手に負えないほど、グローバル化とは難しい問題に思えてしまいますね。そこで、まずは皆さんの日常の変化に注目してみてください。例えば「電車に乗ると外国人を見かける頻度が高くなった。」「隣り近所に外国人が住むようになった。」など、実感していないでしょうか。

昨年度、訪日外国人が年間2000万人を超えました。わずか3年で2倍に増加し、在日外国人労働者の数も100万人を超え、身近な日常の中で、外国人が増えたことを肌で感じているのではないでしょうか。ちなみに先日、世界人口は75億人を超え、一方で日本の人口は減少の一途をたどっています。

グローバル化を考える時、研究者や実務家の様々な議論が耳に入ります。「グローバル化は日本経済を破壊する」といった過激な主張を含めて賛否両論あるわけです。一方、私たちにとってグローバル化とは、日常の生活の中で、現実的に様々な異質な人材、あるいは異質なもの、つまり「"多様性"に直面すること」によって気付かされているのではないでしょうか。異質な人材に直面するということは、それぞれのもつ意見や見解が多様であるという現実に取り組まなければならないということです。今後ますます、ヒトやモノの移動が増加する社会で生きる皆さんにとって、自分を見失わず、むしろ自分の強みを上手に表現し、気持ち良く生きるためには何が必要なのでしょうか。私の研究の側面から多少のヒントが見つかればと思います。

多様性に直面した時、ワクワクしますか?多様性に直面した時、ワクワクしますか?

私が研究に興味をもったきっかけは大学時代に遡ります。昔も今も世の常ですが、それは異文化の中での体験を通してでした。当時参加した日米学生会議で経験した極度にもどかしい気持ちが発端の1つだったと思います。

日米学生会議は第2次世界大戦前の1934年に創設された日本初の国際的な学生交流団体で、今年69回目を迎える歴史ある会議です。実際には日米両国から約30人の学生が1ヶ月にわたり共同生活を送りながら、様々なテーマのもとで議論を行い、相互理解を深め、参加者達が会議で得た成果を長期的に社会貢献、社会還元することが大きな目的です。

つまりそれは、好きな場所を旅し、好きな物を食べ、好きな話ができる私的な旅行とは一線を画し、チームには気の合わないアメリカ人、常に反論したがる日本人など、会議の目的達成に向けた緊張感の中で、揉める要素が満載の「場」でした。1年の準備期間と1ヶ月の会議の間、寝食を共にして米国移動を続けた人生初の苦しい体験でした。当初「文化の違いは2国だけなので余裕だわ」と思ってワクワクしていたはずの活動が難航を極めました。同じテーマを投げかけても、共通言語が全く見いだせずに心底苦戦した経験。「共通の目標を達成するために、どうすればまとまるのだろう?」これはまさに戦略的マネジメントの基本的問いでした。目標は1つであるはずなのに、2国間で予想以上の隔たり。さらに当然まとまっているはずの日本団の中でさえ関東&関西対決が繰り広げられました。

これがきっかけとなり、帰国後の卒論では、在日外資系企業(日本で経営する外国企業)5社(米、英、仏、独、日)を対象に、日本という環境下で事業の目的を達成する際、異文化を背負う従業員がどのように共通目標を達成しているのか。その問題点、解決策をまとめたというわけです。遥か昔の原点です。当時揉めた仲間とは30年を経た今でも、文化を超えて家族同然の付き合いが続いています。

多様性に直面して緊張するかどうかは、経験値に比例するとも言われます。日本のように全人口の95%以上が同一民族で占める国と、もともと複数の民族から構成される多民族国家や、国民の大半が移民からなる移民国家など、多様性に富む環境で育ったメンバーとは発想が異なります。文化を超えてチームを結成する際、多様性のマネジメントに慣れた外資系企業では当時から様々な工夫が見られました。日本に住む私たちにとって多様性と対峙することは、様々な段階で苦労が伴いますが、収穫は計り知れないと思います。その科学的根拠をさらに追究したいと思ったのが大学院進学の動機でした。

ニューヨーク合宿にてBloomberg本社訪問
ニューヨーク合宿にてBloomberg本社訪問

多様性(異質)のマネジメントがイノベーションにつながる?多様性(異質)のマネジメントがイノベーションにつながる?

私の研究は企業間関係の戦略的な分析からスタートしています。それぞれに個性のある企業同士が合併や、提携をする話を聞いたことがあるでしょう。企業は商品開発、技術革新、販路開発など様々な局面で連携します。合併はよく結婚に例えられますが、提携関係は、複数の企業が結婚はしないけれども、様々な局面で協力関係をもつことです。これには様々な形があり、多様な組合せによって予想以上に成功したり、失敗したりと成果に大きく影響します。企業間の"多様性"が高まれば高まるほど、組織のケイパビリティ(柔軟性や力強さといった組織の能力)を高め、組織の継続維持に必要な外部環境の変化への適応力が高まり、ひいては企業の超過利益を導くイノベーションの生成に繋がるという研究があり、様々な組織を取り上げて実証研究を重ねています。 これを組織の人材に応用してみると、個性(アイデンティティ)をしっかり確立していることが、多様性組織で活かされる秘訣です。個性を確立してはじめて、多様性の中で協力関係を築くことができるわけです。

現在、3年前に在外研究で1年間お世話になった米国コロンビア大学ビジネススクールの先生方と共同で、企業行動に注目した「企業の多様性と提携関係の成果(イノベーション)に関わる研究」や、企業内個人に注目した「組織メンバーの多様性と企業の成果に関わる研究」に注力しています。特に、ニューヨークのマンハッタンは人種の坩堝(るつぼ)と言われますが、地下鉄に乗っても、スーパーマーケットに行っても、英語以外の言語が頻繁に耳に入ります。そんな環境に位置するコロンビア大学ビジネススクールで、私の担当した戦略論のクラスでは、履修者60人の学生の出身国だけをみても24ヶ国に及びました。クラスの議論は、それぞれの文化を背景にもつ異論反論が飛び交います。グループワークのたびに議論が白熱してバトルに至ることも多々あります。しかし、バトルの苦労を乗り越えた末に合意した提案には、"多様性のマネジメント"を達成した協創の知恵が盛り込まれ、チームの個性がそれぞれに活きていました。

コロンビアビジネススクール入口
コロンビアビジネススクール入口
研究の成果として日本企業のケーススタディをビジネススクールの材料として寄贈
研究の成果として日本企業のケーススタディをビジネススクールの材料として寄贈

グローバル企業の現実を自分の眼で見てみよう!グローバル企業の現実を自分の眼で見てみよう!

さて、グローバル経営を実現している"グローバル企業"とはどんな企業でしょう。グローバル企業というと真っ先にマクドナルドや、コカ・コーラを思い浮かべる人は多いでしょう。世界中、どこへ行っても同じ味が楽しめる。たしかにグローバルです。しかし、経営学の分野でグローバル企業とはどのような企業を意味するでしょうか。

「グローバル企業とは、世界中で満遍なく事業活動を行う企業」とし、「欧州、北米、アジアの3地域でその企業固有の優位性を発揮できる企業」という定義があります。この定義をもとに自国の売上が5割以下で、2つの他地域でそれぞれ2割以上である企業をグローバル企業と定め、『フォーチュン』という経済誌で500の企業を調べたところ、全世界で9社しかなかったというのは有名な話です。ちなみにマクドナルドは入っていません。日本のトヨタやホンダも入っていませんでした。欧州市場での売上比率が低いからです。

つまり、どの企業もこぞってグローバル企業を目指す必要はないのです。むしろ地域に根差した企業固有の『強み』が何か、その企業の独自性、すなわち、他社と異なる『違い』が何かを深く考えることが重要です。他社との『違い』が明確であればあるほど、その企業の価値は希少性に富むことになります。希少価値が高ければ高いほど、社会ではより一層必要とされる存在になる可能性が高くなります。その企業固有の独自性(『強み』)を深めることこそ、グローバル社会で生き残る戦略になるのです。

経営学は実学です。こうした学びと現実のギャップを直視できる人材を育成したいと願って、2013年以来、各務ゼミでは毎年海外合宿を実施しています。主として海外展開を進める日本企業を訪問し、現地採用の従業員や、共に働く日本人駐在員から本音を聞き出す体験学習を実践しています。こうした小さなアクションの積み重ねが、いずれ社会で大きな自信に繋がります。個性を見失わずに多様性を受け入れる人材に成長するためには、まずは多様性の中に身を置いてみること、そして体験を伴う学習を重ねることが唯一の方法だと思います。

ニューヨークゼミ合宿・コロンビア大学でディスカッションを終えて
バンコク合宿にてTOTO Thailand 工場見学

Profile

各務洋子教授
東京都生まれ。国際基督教大学大学院行政学研究科経営学専攻博士後期課程修了。博士(学術)。米国コンサルティング会社勤務などを経て駒澤大学経営学部教員。同大学グローバル・メディア・スタディーズ(GMS)学部設立に設置準備室長として関わり2008年より現職。2013年コロンビア大学ビジネススクールにて1年間客員研究員。主な著書に『映像コンテンツ産業とフィルム政策』(丸善)、『コンテンツ学』(世界思想社)、『トランスナショナル時代のデジタル・コンテンツ』(慶應義塾大学出版会)、『情報通信の国際提携戦略』(中央経済社)、『経営学基礎』(中央経済社)など。

グローバルを語る上でAI(人工知能)も重要なキーワードとなってきました。
ということで、次回は「経済学から見た人工知能研究」にタスキを繋ぎます!

次回は 第7区 経済学部 井上智洋准教授

駒澤大学ラボ駅伝とは・・・
「ラボ」はラボラトリー(laboratory)の略で、研究室という意味を持ちます。駒澤大学で行われている研究を駅伝競走になぞらえ、リレー形式で紹介する連載メディアです。創造的でユニークな研究を通して見える「駒大の魅力」をお伝えします。

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