落語なら遊馬を聞け! と言われる噺家(はなしか)になりたい
落語家 三遊亭 遊馬 さん
- 落語家 三遊亭 遊馬 さん
- 1970年埼玉県生まれ。1994年仏教学部禅学科卒業。三遊亭小遊三に入門し、三遊亭遊(ゆう)だちの名で前座修行を開始(※1)。1998年遊だち改め遊馬の名でニツ目に昇進。2008年真打昇進。2014年に第69回文化庁芸術祭(大衆芸能部門)大賞を受賞。古典落語の世界に新風を吹き込む気鋭の落語家として注目されている。
落語界の第一線で活躍されている三遊亭遊馬さんに、学生時代の思い出や落語にかける思いなど、ユーモアたっぷりに語っていただきました。
どんな学生生活でしたか?
大学では落語くらぶに入部しました。あまり信じてもらえないんですけど、人前で話すのが苦手で、性格を変えようと思ったわけです。落語くらぶは今年で50年目。僕はちょうど真ん中の25期。部が充実期に入った頃だったので練習日も行事も多く、結束が強かったですね。「くらぶ道」という厳しい決まりごともあって、入部時に部内恋愛禁止と教えられたんですが、素直に真に受けたのは僕だけ。気がついたらみんな破っていて、見かねた先輩が「お前たちはどうして部内恋愛するんだ。外を見ろ。ガラガラ(窓を開ける動作)。あんなに女子大生がいるじゃないか!」って怒っていました(笑)。
仏教学部では、皆川広義先生(※2)の「仏教伝道研究」を勉強しました。ある日、本屋さんで「仏教と落語」について書かれた本を見つけて、ときめいちゃったんですよ。落語の祖といわれている安楽庵策伝(あんらくあんさくでん)和尚は説教師で、面白おかしい話を交えながら布教活動していたことを知ったんです。卒業論文の論題は「仏教における微笑みの研究」にしました。
不特定多数の人に興味を持って話を聞いてもらうという点では、お坊さんも落語家も似ているんです。
プロの落語家になろうと思ったきっかけは?
学園祭のときに、神様が降りてくるような感覚を味わいました。覚えた通りにやっているだけなのにドッカーンと受けて、落語の力ってすごいなと思いました。プロでやっていける自信はなかったんですが、小さなコンクールで優勝したりして、何とかなるかなと。落語くらぶの先輩で当時真打になったばかりの桂竹丸師匠に相談させていただいて、師匠小遊三に入門することを決めました。
プロになる前は楽屋裏の芸人さんたちは、さぞかし破天荒だろうと思っていたんですけど、普通なんです。みんな師匠のカバン持ちから始まって、挨拶や気働きを覚えてって、基礎から仕込まれているからちゃんとしている。芸の道は厳しいといいますけど、僕の場合は好きで選んだ道なので辛いと思ったことはないですね。お酒で失敗してクビになりそうなことはありましたけど(笑)、自分から辞めようと思ったことは一度もないです。
ただ、落語家はニツ目になると自分で売り込みをしないといけないんです。就職活動もしたことがなかったので困りました。独演会を開くことにしたはいいけど、お客さんの集め方がわからず、落語くらぶの先輩に助けてもらったこともありました。
昨年の文化庁芸術祭では見事「大衆芸能部門大賞」を受賞されましたね。
驚くと同時にうれしかったですね。プレッシャーもありますが、通過点として、今までやってきたことに間違いはなかったのだという自信にもなりました。これからは「落語なら遊馬を聞け」と言われるよう、自分ならではの色をより濃くしていきたいです。
昔は滑稽話が好きでしたけど、最近はしみじみと笑える人情話を得意としています。落語の笑いの神髄はそっちにあると思うようになったんです。
最近はWEB上でも落語が聞けますが、ぜひ寄席や独演会などに足を運んでいただきたいです。生の振動が生む面白さがありますよ。
学生にメッセージをお願いします。
仕事を選ぶときは、自分に嘘をつかないことです。ワクワクすること、楽しいことが、自分に合っている道なんじゃないかな。人に言われたからとか、条件が良いからとかで選んでいると、自分で責任が取れないんですよ。真面目に考えすぎちゃだめですよ。自分の勘を信じることです。
時間に余裕のある大学時代に行動するのが大事だと思います。動かないと何も見つかりませんから。楽しそうな道に進んでみて、違ったら次を探せばいいんです。そうすればおのずと自分の好きな道が開けてくると思います。
※1:江戸落語の身分は見習い、前座(ぜんざ)、二ツ目(ふたつめ)、真打(しんうち)からなる。
※2:本学名誉教授
※ 本インタビューは『学園通信319号』(2015年10月発行)に掲載しています。掲載内容は発行当時のものです。