2017年8月2日掲載


サンゴ礁を守る仕事

沖縄県石垣島 「しらほサンゴ村」センター長

鈴木 倫太郎 さん

1998年 文学部地理学科卒業
2004年 大学院地理学専攻博士後期課程修了(博士号(地理学)取得)
2016年よりWWFサンゴ礁保護研究センター「しらほサンゴ村」センター長

 

<サンゴ礁研究に至るまで>
 私は、もともと小学生のころから地図帳を見るのが大好きで、いつも飽きずに眺めていました。中学生のとき、地理学が専門の担任の先生にフィールドワークに連れて行ってもらったことも、地理好きに拍車をかけたと思います。大学では地理学を学ぼうと駒澤大学に入学しました。

 そんな私の人生を決めたのが、2年次で必修の「野外巡検T」(当時)でした。2年のはじめに漠然と文化地理学がやりたいと考えていた私が選んだのは長野に行くコースでしたが、希望者が多く、ジャンケンとなりました。今でも鮮明に覚えていますが、チョキを出して負けたのです。そこで選んだのが、高木正博先生率いる石垣島巡検でした。こうして1995年6月27日から30日まで、3泊4日で石垣島調査に参加しました。参加学生は25人。9班に分かれ、石垣島の土地利用や植生、自然観や宗教を探る風水など、さまざまな角度から実地調査を進めました。私のグループは「赤土班」で、土地改良事業がサンゴ礁に与えた影響を探るために、市役所で資料を探し、パイナップル農家に聞き取り調査を行いました。その時、調査の一環で白保の海に潜ったのですが、生まれて初めて見るサンゴ礁の美しさに圧倒されて、この海を守らなければと強く思いました。こうして私は、以後毎年、春と夏に石垣島で、当時大学院生だった市川清士先輩の研究のお手伝いをすることになり、そこでサンゴ礁に関する基礎的なことを教えていただきました。

 サンゴ礁を守るためには、サンゴ礁の環境がどのように形成されるのかを知らなければなりません。私は卒業後も研究を続けたいと、岡山大学の修士課程に進みました。当時の指導教官はサンゴ礁の形成過程が専門の菅浩伸先生(現 九州大学教授)でした。ここではサンゴ礁の形成にあたってウニなどの生物がどのような影響を及ぼすかを研究テーマとしました。大学院では毎週木曜にゼミがあるのですが、院生は私だけでいつも先生と1対1。発表していいのは、英語の論文の詳読内容と、自分が進めた調査結果の報告だけという厳しいもので、午後2時半からスタートして、終わるのはいつも夜11時を回りました。この2年間で研究のやり方をずいぶん鍛えられたと思います。博士課程は、再び駒澤大学に戻り、海岸地形研究の第一人者である小池一之教授(故人)に師事しました。

 それまでのサンゴ礁地形に関する研究では、地形や環境によってサンゴ礁に生息する生物や、生物による侵食の形態が異なることはわかったのですが、定量化しないとサンゴ礁形成の研究には寄与できません。年に4カ月ぐらい石垣島に通いつめ、季節ごとに侵食量を計測し、実験水槽を組んで観察しました。そして、4年かかって論文をまとめ、博士号の学位をいただくことができました。

 

喜界島礁斜面
 
パナリ礁池

<これまでの道のり>
 博士号を取得したといっても、ポストを得るのは容易ではありません。その後私は、公立の科学館で子ども向けの科学教室の企画・運営、非常勤講師、国立環境研究所の専門員、環境コンサルタントの主任研究員などを務めるかたわら、駒澤大学応用地理研究所に籍を置き、どんな形でもいいから研究を続けようと思っていました。そこで考えたことは、サンゴ礁を守るためには、どこにどんな種類のサンゴが分布しているのか、正確な地図が必要だということでした。そこで助成金を得て、白保のサンゴ礁の基礎地図の作製に取り組みました。次のステップでは、簡易的な調査方法を考案し、地域住民の方々が参加し、白保のアオサンゴ群集の5年間の変化を把握する地図を作製しました。そこでは専門家や研究者だけでなく、地元の人が調査に参加し、結果を共有することの大切さを実感しました。

 こうした研究を重ね、私は2016年にWWF(世界自然保護基金)サンゴ礁保護研究センター長の職を得ました。準備室発足のころから約20年、WWFとは浅からぬ縁がありましたが、研究だけでなく、サンゴ礁保全について、サンゴ礁がある現地においてその役割を担うことになりました。

与論島でのサンゴ礁調査

<センター長として>
 センター長としての私の役割は、サンゴ村でのイベントやサンゴ礁保全の研修、施設の運営管理のほか、環境省や石垣市の行政や関係団体と協働してのサンゴ礁の保全活動を行うなど、多岐にわたります。WWFは、白保の地で長年の地域づくりの取り組みが成果を上げ、地域が主体となってNPO法人を設立し、自立できるまでになりました。また、赤土の流出をくいとめるために月桃という植物を植栽し、この月桃の葉や茎を蒸留して抽出したルームデオドラントを商品化するなど、赤土対策の先進的な事例も生まれています。私の今後のミッションは、この白保でのサンゴ礁保全に繋がる活動を『白保モデル』として南西諸島に水平展開することです。環境省とも協力し、与論島や喜界島などを精力的に回っています。また、地球温暖化などによって、現在のサンゴ礁生態系は危機に瀕しています。例えば、石垣島と西表島の間に広がる石西礁湖は、その規模と生息するサンゴの多様性から日本最大級のサンゴ礁として知られていますが、2016年の夏に長期にわたって高水温が続き、棲息するサンゴの9割が白化し、その7割が死滅したとされています。2016年の夏は、地元の事業者などと協働して、白化現象について情報発信するプロジェクトを立ち上げました。またサンゴ礁保全活動に取り組んでいる企業や団体を認定し、マークなどによって消費者がその商品やサービスを選ぶことができるような認定制度の仕組みも計画中です。

 2016年の夏は、大規模な白化現象が起き、多くのサンゴが死んでしまいましたが、サンゴの生命力は強く、条件さえよければ復活できます。サンゴ礁がつくり出す豊かな生態系は、私たちの暮らしにさまざまな恵みをもたらしてきました。サンゴ礁を守ることは、私たちの生活を守ることにもつながるのです。衰退したサンゴ礁生態系の回復は、長い時間がかかるかもしれませんが、子どもたちのそのまた子どもたちに、サンゴ礁の豊かな海を渡すために、今できることを精一杯進めていきます。皆さんも一度、しらほサンゴ村に遊びに来てくださいね。(サンゴ礁の写真は、鈴木倫太郎さん提供)

 


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